金融緩和の泥沼脱出は至難
日本経済に将来、大きなダメージを与えるのは、誤った金融政策の後始末です。長引く異次元緩和の誤りに気付き、いつ軌道修正するのかなと思っていましたら、まだまだ先です。日銀のかじ取りにあたる政策委員会(定数9人)の委員2人の任期切れに伴い、政府は交代人事を提示しました。それをみると、異次元緩和派が7人に増えました。
日米欧は08年のリーマンショックへの対応、デフレ脱却のために、超金融緩和を続けてきました。このうち米国は、すでに金融正常化に向け、連邦準備理事会(FRB)は段階的な金利引き上げに方向転換しました。欧州中央銀行(ECB)も利上げを視野に入れつつあります。日本は置き去りどころか、ひとり、超緩和の道をさらにひた走るのです。
消費税引き上げにしろ、社会保障費の削減にしろ、財政再建に手をつけると、選挙に影響がでることを政権は恐れます。それに対し、金融政策は日銀の一存で決められ、国会における抵抗も選挙の洗礼も受けませんので、政権とって、これほど好都合な手段はないのです。金融引き締めと違って、当座は、金融緩和が国民や経済界に痛みを感じさせことはないからです。
絶句した米国のウォッチャー
指折りの日銀ウォチャーである加藤出氏(東短リサーチ)が最近、米国に出張し、金融の専門家と意見交換しました。日銀の状況を書いたグラフを見せると、驚愕して絶句したそうです。いずれ出口(金融正常化)に向かおうとすると、日銀に巨額の損失が発生し、マネー市場も動揺するので、動くに動けない泥沼にはまっているというわけです。
日銀が保有する国債は3月現在、420兆円です。発行される国債のほとんどを次々に買っています。上場投信(ETF)まで購入し、16年度は5・5兆円、日本株の最大の買い手です。安倍政権が100兆円近い国家予算を組み続けられているのは、日銀が国債を買っているからです。多大な犠牲を払って異次元緩和、ゼロ金利政策を続けており、そのつけは必ず回ってきます。
日銀政策委員会で異論や批判がでることを期待しても、委員の任期がくるたびに、緩和派に差し替えていますので、政策決定は黒田総裁の思うままです。日銀の政策が異次元緩和・ゼロ金利の一点に集中し、意思決定が総裁派主導で行われていますから、異常な政策の長期化に疑問を差しはさむことがないのです。
以前の政策委員会の構成では、都銀、地銀、商工、農業代表などが入っていました。その後、経済・産業界代表、経済全般に詳しい学者、消費者行政に関心を持つ学者が委員になる時代もありました。現在は、マネー市場の専門家、マネタリズム(貨幣数量説)支持派の学者が主流です。マネー市場の専門化、高度化に合せ、委員は専門的な知識があっても、全体を見渡す視野は狭くなっていると思います。
日銀による財政支援が最も深刻
日銀が独占的に支えている財政構造の異常さ、物価引き上げを悲願にしている日銀と消費生活の関係、円安による輸入物価の上昇が招く実質賃金を下落など、幅広い視野から金融政策の問題点を考えているのでしょうかね。最も深刻なのは財政ファイナンス(日銀による国債引きうけ)の弊害です。黒田総裁は財務省出身といっても、専門は国際金融ですし、マネタリズムの信奉者である点を安倍首相に買われたのですから、財政問題は二の次にしているでしょう。
国が発行した1000兆円もの国債の償還は絶望的です。日銀が抱え込んだ国債も同様の運命でしょう。そこで最近は「日銀保有の国債は、将来にわたって償還しないでもいい永久国債とする。つまり現代版の徳政令」、「日銀が損失で債務超過(倒産状態)に陥った時は国が資本を出資する。その資金は日銀引き受けの国債で調達する」という奇策がささやかれているほどです。
日銀と国のバランスシート(資産と債務の状況)を一体に考えてみようと、これまた奇策を提唱する学者や識者もおります。戦時ならともかく、今は平時ですよ。そんな時に、世界初の奇策を持ち出したら、日本は破産状態だと国際金融市場に向けて宣言するようなものです。破産状態の国の格付けは地に落ち、日本国債を買う投資家などでてこないでしょう。日銀は先行きのことをどう考えているのか、心配でたまりません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。