ども宇佐美です。
本日はギャンブル等依存症対策法案を巡る情勢のお話です。
さてギャンブル等依存症対策法案については今国会で議論される予定となっているのですが、そもそも同法案の提出が検討されるきっかけになったのはいわゆるカジノ推進法の付帯決議でした。カジノ推進法の付帯決議にはギャンブル等(公営賭博+パチンコ)の依存症対策に関して、下記のように大きく分けて5つの要望が書かれています。
①ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること。
②我が国におけるギャンブル等依存症の実態把握のための体制を整備し、その原因を把握・分析するとともに、ギャンブル等依存症患者の相談体制や臨床医療体制を強化すること。
③加えて、ギャンブル等依存症に関する教育上の取組を整備すること。
④また、カジノにとどまらず、他のギャンブル・遊技等に起因する依存症を含め、 ギャンブル等依存症対策に関する国の取組を抜本的に強化するため、ギャンブル等依存症に総合的に対処するための仕組・体制を設けるとともに、関係省庁が十分連携して包括的な取組を構築し、強化すること。
⑤また、このために十分な予算を確保すること。
①に関しては中身のないお題目ですが、②〜⑤に関しては相当具体的な取り組みが書かれており、これを受けて2016年12月に、内閣官房にギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議が設置されました。
この会議の面々は、総務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、内閣府特命担当大臣(金融)、内閣府特命担当大臣 (消費者及び食品安全)、国家公安委員会委員長及び内閣官房長官と幅広いものとなっています。
このように主要閣僚が勢揃いした会議は、様々な論点を抑えられて包括的な議論ができるという点では良いのですが、他方で「船頭多くして、船山登る」の状態になって、議論が発散したり主導権をめぐって各省庁の争いがおきたりする恐れを抱えています。今回も典型的にそのパターンとみられ、早々に下の表のように様々な論点が抑えられた総合的な対策をまとめることには成功しました。
他方で実際に政府でギャンブル依存症対策法案を作る段階になると、「では誰がこうした総合的な対策を仕切って実行していくのか」というところで各省庁が足を引っ張り合ってまとまらなくなったようです。当初厚生労働省が予算獲得も見据えて政府全体の依存症対策を仕切ろうと全面に出ようとしたようですが、ギャンブル所管省庁としてはこれまで好き勝手に自分たちでギャンブル行政を差配できたのに他の省庁から口を出されるのは癪でこうした動きをけん制し、他方で内閣府は全面に出るほどの気概もない、といったような動きが起きて政府内ではまとまりがつきづらくなったようです。このように各省庁の利害が対立したため、当初内閣提出法案として予定されていたギャンブル依存症対策法案が、今年に入って議員立法に鞍替えすることになりました。
これは各省庁にとってはある種の予定調和だったのですが、他方で私たち(=「ギャンブル依存症問題を考える会」)にとってはありがたい話になっています。
上図はカジノ推進法の審議時に行った記者会見で用いたものですが、私たちとしては「各省庁の上に立って独立的にギャンブル行政を監督する機関の設立」を求めていたので、既存の省庁ではなく新設組織の設立も含めて柔軟に議論できる政治家の皆様に法律を作ってもらえるということは、大変期待を持って受け止めています。
新設組織の設置を求めた理由は、
①そもそも既存の官庁はこれまで数十年ギャンブル依存症対策にほとんど取り組んでこなかったので信頼できないため、
②ギャンブル依存症対策とギャンブルの振興を同一省庁が行うと省庁と産業側が癒着して規制が骨抜きになる可能性があるため、
の二点です。
他方で”官僚の性”として各省庁は自分の所管が外部に荒らされるのは嫌いますから(批判しているわけではないつもりです)議員立法を骨抜きにするために必死になると思われるので、今後各省庁と与党のギャンブル依存症ワーキングチームとの間でつばぜりあいが行われることになるかと思われます。
対策自体はある程度リスト化してあるわけですから、今後の論点としては、
①新たにギャンブル依存症対策を責任を持って推進する機関が内閣府または内閣官房に設置されるか
②また機関が新設されるとしたら、その機関にどのような権限が与えられるか
③また依存症対策予算はどの省庁がどのように執行することになるのか
というところになりそうです。結果どのような法案が出来上がるかは全く予測がつきませんが、仮に新機関の新設が盛り込まれていない総合的なプログラム法案ができるだけとなった場合、各省庁の巻き返しが成功したと見てもよいでしょう。
この点特に敏感になっているのがパチンコ業界及びそれを所管している警察庁なのですが、その点についてはまた別の機会にまとめたいと思います。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2017年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。