暑い夏がやってきた。来月、日本は72回目の終戦記念日を迎える。政府は、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」とし、全国戦没者追悼式を主催している。この時期は、多くのメディアで「戦争」や「改憲議論」に関する番組が放送される。政治団体・NPO等による平和集会が開かれるので、自ずと考える機会が増えてくる。
改憲議論が高まっているいま、過去の歴史に真摯に向き合うことは大変意義がある。今回は、米国人弁護士である、ケント・ギルバート氏(以下、ケント氏)の近著、『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書) を紹介したい。日本の歴史と政情に精通した米国人弁護士が、改憲論争の核心に迫っている。
アメリカの戦争に巻き込まれる
――「日本国憲法とは何か」。憲法改正にまつわる議論を振り返ると、いかに特定の立場のみで論じられてきたかが理解できる。
「安保法制の国会審議の経過を見ていて次のように思いました。日本の国防に必要不可欠な法案審議のはずが、本旨から外れた議論ばかりが目についたからです。集団的自衛権の限定行使容認をもって『戦争法案だ』『アメリカの戦争に巻き込まれる』という意見は、あまりにも的外れで無責任です。」(ケント氏)
「私はSNSに『戦争反対に賛成です。だから安保法制に賛成です』と投稿しました。『地震反対』『台風反対』と叫んだところで、自然災害は発生します。カギのない家には泥棒が入ります。『戦争反対』と叫んでも、戦争に巻き込まれるリスクは減りません。」(同)
――それでは、当面の施策はどのようにすべきだろうか。
「当面は憲法解釈の枠内で、戦争を仕掛けられないように、自衛隊や在日米軍、新安保法制を通じて、仮想敵国を牽制する抑止力強化が急務です。『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』とセットで考えれば意図は明らかです。日米両国がどのように共同して対処するべきかが明記されています。」(ケント氏)
「安保法制の一側面を見れば、アメリカの戦争に巻き込まれるリスクが高まったという批判は間違ってはいません。『周辺事態』に限定されていた範囲は拡大され、『重要影響事態』に対処する後方支援は地理的な制約が取り払われたからです。」(同)
派遣要請は堂々と断るべきである
――安保法制の枠組みはどのように変わるのか。
「安倍首相は記者会見で集団安全保障に伴う武力の行使は、憲法上認められないと言明し、与党協議や内閣法制局との調整を経て、安保法制の枠組みが生まれました。安保法制でアメリカの戦争に巻き込まれるリスクが高まったことを否定はしませんが、それはあくまでも『自衛権』の行使範囲が広がっただけです。」(ケント氏)
「集団的自衛権を行使するかどうかは、その都度、日本政府が日本の国益にもとづいて決めなければなりません。海外におけるさまざまな国際情勢が、即、日本の安全保障を脅かさないと日本政府が判断した場合、アメリカからの派遣要請を堂々と断ればいいのです。他の国は皆そのようにしています。」(同)
――主権国家としての判断をすべきということか。
「参考になるのは、たとえば、2003年のイラク戦争のときのフランスとドイツの対応です。フランスもドイツもイラク戦争には参加していません。フランスは国連安全保障理事会の演説で、『早まった武力行使は深刻な結果をもたらすリスクがある』とまで発言して、アメリカに翻意を促しました。」(ケント氏)
「イラク戦争には参加を拒んだドイツですが、2001年の米同時多発テロ後のアフガン戦争では、NATOが集団的自衛権の発動を決定したため、国内世論の反発を押し切って、アメリカ軍の後方支援や、治安維持と復興支援を目的とする国際治安支援部隊(ISAF)への参加に踏み切っています。」(同)
――従来、ドイツでは、NATO域外への派兵が憲法で禁じられていた。その後、憲法の解釈を変更し、NATO域外への派兵を容認した歴史がある。
改正反対論者のウソを見抜く
「国防は、国家と国民が行うべき義務の中でもっとも重要なものです。自分の国は自分の力で守ることが当然であり頼りきりではいけないのです。自国で国を守れるようになることが、アメリカの参加要請に対して、日本が真正面から『NO』というための最短距離と考えられます。」(ケント氏)
「つまり、『日本はアメリカの言いなりになってはいけない』『戦争反対、9条を守るべき』などと主張する人ほど『憲法改正』と『軍事力の増強』を声高に叫ばなければ、論理的におかしいのです。改正反対論者の主張は矛盾しています。」(同)
多角的な視点をもつことで多くのことが見えてくる。「自衛隊は必要だが憲法違反だ」「憲法9条を改正することには抵抗がある」。そのような人に本書をお奨めしたい。読むことで議論を俎上に載せることが可能になると思われる。
参考書籍
『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書)
尾藤克之
コラムニスト
<第6回>アゴラ著者入門セミナーのご報告
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次回の著者セミナーは8月を予定。出版道場は11月を予定しております。
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