規制緩和を歓迎した石油業界はNAFTAにおののいている

昨日、エネブロ#362「暴風雨ハーベイがアキレス腱をさらけだした」を次の文章で終えた。

「少なくともエネルギーに関する限り、アメリカにとっては「自由貿易」がきわめて重要なのだ。特にカナダとメキシコの比率が高いから、NAFTAを再交渉してもエネルギーは別扱いにするのだろうな」

今日、遅れに遅れている次作の原稿書きの手を止め、ネットでニュースを検索していたら、エネルギーに関するNAFTAの交渉についてBloombergが報じているのに遭遇した。

”Oil firms that cheered regulatory cuts are quaking on NAFTA” (updated on Sep 2, 2017 00:42) というタイトルの記事だ。

これによると、NAFTA交渉は金曜日に再開されたが、これまでのところ「エネルギー分野」についての議論はなされていない模様だ。業界としては「不変」を望んでいるが、7月に交渉を初めて以降、トランプ大統領が3度も「NAFTAからの撤退」を口にしているので「おののいている」ということのようだ。

トランプが、すべからく「雇用」のためとしているからだろうか、米加墨三カ国の業界団体が先月、共同で意見表明を行い、現在のNAFTAに基づく自由貿易が阻害されたら「何千万人(tens of millions)もの雇用」を危うくすると主張したそうだ。三カ国の総人口は約4億6,000万人、労働人口は約2億4,000万人と聞いた記憶があるので、「何千万人」というのはおおげさな気がしないでもないが、「100万人単位」ではないよ、というぐらいの意味だろうか。

さて、Bloombergの記事は長いので、内容をかいつまんで、筆者の興味にしたがい次のとおり紹介しておこう。

・トランプ政権は米国の「膨大なエネルギーの富」を解き放つべく環境規制を緩和し、(連邦所有地の)掘削地の開放などを行っているが、NAFTAの見直しは逆効果を生みかねない。

・金曜日に交渉が再開されたが、業界首脳は23年続いたNAFTAを残したいと願っている。NAFTAこそ北米の石油ガス産業にルネッサンスをもたらし、昨年カナダおよびメキシコに340億ドルの輸出を実現したものだからだ。

・米加墨三カ国の業界団体首脳は先月、共同で意見表明を行い、北米の国境を越えたエネルギー取引を妨げる如何なる変更も、何千万人もの雇用を危うくすると主張した。

・API(アメリカ石油協会)会長のJack Geraldはインタビューで「NAFTAのエネルギー関連条項は変更する必要がない」と述べた。

・先月始まった交渉について、トランプは少なくとも3回、アメリカが脱退する可能性を提起した。

・APIの税務会計担当役員は「(エネルギー分野は)焦点になっていないかもしれないが、きちんと見ていないと巻き添えを被るかもしれない」と述べた。

・NAFTAが締結されたほぼ四半世紀前、アメリカは石油需要の約半分を輸入していた。今では240万BD生産しているカナダのオイルサンドは、事業として始まったばかりだった。メキシコは石油開発から精製まで国家独占だった。

・「北米におけるエネルギー情勢は大きく変化した。交渉の人質になるかもしれない」とあるコンサルタントは指摘する。

・NAFTAにより、ガソリンなどの石油製品が無税で取引されており、メキシコ向け天然ガスは昨年、総輸出の60%に相当する日量40億立方フィート(LNG換算3千万トン)に増加した。

・これまで北米の石油ガス事業は国境を越え手に手をとりながら共同で推進してきており、唯一(NAFTAに)織り込むべきは、メキシコの石油産業への市場開放関連のみだ。

・シェブロンは、サプライチェーンが北米で構築されており、資機材、部品、修理サービス、化学品等すべて三カ国の製造業者に依存しているとして「これらのサプライチェーンを壊すことは米国ビジネスにとって大打撃だ」という。

・2016年12月の入札では、8つの深海鉱区のうち5つを米企業が落札している。

・API会長のGeraldは「ガス事業のように巨額の投資が必要なものは、確信(Confidence)と確実性(Certainty)が必要だ」と指摘する。

・最大のリスクはトランプ政権かもしれない。匿名希望の3人のロビーストは、本件について米政権の立場ははっきりしていない、もしかすると取引材料かも知れない、という。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年9月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。