SankeiBizに『【高論卓説】8Kと4K、区別つかず 先が見えた画素数競争 発想の転換必要』という記事が掲載された。記事を執筆した森一夫氏は「8Kテレビは美しい画像を映し出し、素晴らしい技術の成果」だが「虫眼鏡で分かる差は、商品としてどのくらいの付加価値があるのだろう」と感じたという。
まともな記事だが遅すぎる。僕が記事『4Kテレビは失敗する』をアゴラに掲載したのは2013年1月である。記事を出した直後に先輩からメールがきた。4K・8Kの標準化に苦労した先輩の努力を侮辱する記事だ、という内容だった。
技術者らしい言葉だと思った。技術者は技術を進歩させるのが仕事だから、画素数の増加に向かい続ける。先輩はその道を歩んでいた。これに対して、経営者は市場動向を見て製品の投入を判断する。4Kテレビの需要を喚起するキラーコンテンツを見つけるのはむずかしい、と経営者視点で僕は記事を書いたのだが、技術者視点で批判が戻ってきたわけだ。それから4年たって「虫眼鏡で分かる差」に疑問を呈する記事が出た。
森氏は気づいていないポイントがもう一つある。彼は70インチ型の8Kテレビを見たのだが、そんなに大きなテレビを誰が設置するだろう。家庭に一台ステレオを置いて音楽を楽しでいた時代から、スマートフォンで個々人が好きな音楽を聞く時代に変わった。同様に、一家に一台のテレビを家族全員で視聴した時代は終わり、今では多くの人がスマートフォンで動画を視聴している。70インチ型ではなく、そのような小型画面で8Kに意味があるか、経営者が判断しなければいけないのはこの点である。
先行して4Kテレビが発売されている。電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、2016年一年間で国内市場に薄型テレビは475万台出荷された。このうち4Kテレビは122万台で25%を占めるだけだ。消費者は4Kすらそんな評価していないのに、どうして8Kが売れるのだろうか。
先輩からまた抗議メールが来るだろうが、テレビメーカの期待のようには8K市場は成長しない。