英国政府の公式サイトに『Accessibility and me』というページがある。アクセシビリティに問題を抱える当事者が語った記事が掲載されており、アクセシビリティという課題の理解に役立つ。6件の記事概要を紹介する。
Marian Foley
彼女は政府でコンテンツデザイナーとして働いている。弱視で大きなテキストが必要であり、弱視が通常求める高コントラスト表示では頭痛を起こす。仕事では30インチのモニターにできる限り拡大表示し、また、スクリーンリーダJAWSを使用している。着色した紙に印刷する専用のプリンタも持っている。メモは桃色の紙に青いペンで書く。pdfファイルは何もカスタマイズできないため悪夢である。フォントを拡大できないので、ドキュメント全体を拡大してからのスクロールを強いられる。ウェブデザインを固定するのではなく、閲覧デバイスやブラウザに対応して自動調整する「レスポンシブウェブデザイン」に期待している。
Chris Moore
歳入税関庁でアクセシビリティ普及担当として働く彼は緑内障で失明した。仕事ではJAWS、NVDA、VoiceOverなど多様なスクリーンリーダを使用している。標準の電話機は使えないためiPhoneに転送して利用している。見出しがあればページ構造が理解できるが、多くのウェブページは見出しを正しく使用していない。入力フォームの各項目にラベルがきちんと付いていないのでオンラインショッピングで苦労している。開発段階ではウェブページをキーボードでテストし、すべてのリンクとフォーム要素、ボタンをタブ移動できるか確認してほしい。理想的にはスクリーンリーダのユーザがテストするのがよい。
James Buller
内務省で働き、デジタルサービスを改善するためにユーザの話を聞くのが業務である。目に虹彩がなく明るい光を遮断できず、また細かい表示もわからない。彼は拡大鏡アプリを使用している。スクリーンの倍率を少なくとも200%に設定して作業する。テキスト読み上げ機能を備えたGoogle Readerアプリも使っている。ポッドキャストやビデオは彼にとっては素晴らしい選択肢で、チュートリアルが必要な時には紙によるガイドではなくオーディオビジュアルのチュートリアルを探している。書かれた資料を読んだり紙形式で記入したりするのはむずかしい。受付での氏名の記入、同僚からのポストイットなどを読めない。サイト閲覧では拡大によってスクロールを強いられるのが苦痛で、スクロールの繰り返しは怪我につながる恐れもある。コンテンツのデザイナーは画面拡大鏡を使ってユーザが遭遇したことを体験してほしい。
難読症の匿名官僚
歳入税関庁でマネージャをしている彼は難読症である。ロンドンのディスレクシア研究所からサポートを受け問題を回避する技術を学んだ。文章を書くとスペルミスするのではRead and Write Goldに頼っている。簡単な言葉でさえすべてスペルチェックしている。音声読み上げソフトDragonも使用しているが、訓練すればかなり正確で非常に有用なツールになる。入力フォームがDragonを拒絶すると手入力になるが、これは難読症にとっては非常にイライラすることだ。また、大量のテキストをベタに載せるのではなく構造化したほうが理解は容易になる、ということも知ってほしい。
Molly Watt
彼女は難聴である。また、12歳で進行性失明と診断され14歳でほとんど視力を失った。彼女は支援技術とアクセシビリティの普及のために働いている。アクセシビリティ機能が内蔵されているので、彼女はさまざまなApple製品を使用してる。補聴器も装着している。多くのウェブサイトではダイナミックテキストが有効になっていないため、iPadなどの「大きなテキスト」設定が機能しない。多くのウェブサイトには、視覚障害を持つ人々にとって「挑戦的な」色やコントラストがある。白い背景はグレアを助長し、バックライトは頭痛を引き起こす恐れがある。テキストの後ろに動画が表示されると、テキストを読もうとする人にとって障害になる。デザイナーはまず一番にアクセシビリティを考慮していただきたい。
Rani Nayyar
アルコール倉庫登録制度チームで働く彼は、全身性エリテマトーデスを患い手がよく動かない。職場でのパソコン入力には音声認識ソフトDragonを利用しており、ソフトは彼の声をうまく認識するようにチューニングされている。しかし、Dragonを使用するには周囲のノイズが問題になる。オンラインバンキングなどの利用時にアクセシビリティの問題に直面する。オンラインバンキングではパスワードの入力を求められるがDragonを利用できない。情報システムのデザイナーは、利用者の声を聞き、処理プロセスをできるだけ単純化して、訓練や使用に時間がかかりすぎないようにする必要がある。