『強いAI・弱いAI -研究者に聞く人工知能の実像』(丸善出版)が出版された。自身も人工知能(AI)分野を研究する鳥海不二夫氏による対談録である。
この本は、一見知能があるように振る舞う「弱いAI」と意識や自我を持つ「強いAI」を対比する。インタビューに応じた8人のAIの権威は、ブームになっているのは「弱いAI」であって「強いAI」の登場にはまだ30年はかかると言う。鉄腕アトムやドラえもんが実社会に登場するのはずいぶん先である。
ディープラーニング(深層学習)という言葉からは強いイメージが沸くが、松原仁氏はディープラーニングが人類を脅かすことはないと話す。松尾豊氏はロボットにディープラーニングを適用してGoogleを追随しようと提案している。中島秀之氏は今のAIは特定の目的を達成するプログラムであり道具に過ぎないと説明する。そのうえで、言われたとおりに仕事をするだけの第一段階から仕事の中身を自分で推論できる第二段階に、そして自己の存在について語れる第三段階へと発展していくだろう、という三層構造を提示する。第二段階からが強いAIである。
出色なのは将棋の羽生善治三冠との対談。この本では唯一AIの非専門家として登場するが、その発言は含蓄が深い。将棋で「この一手」がさせない理由には恐怖心があるとして、恐怖心が人間とAIの境目ではないかと語る。ヒトに簡単に負けるようにプログラミングするのは簡単だが、ギリギリ勝負でわざと負ける「接待将棋」はAIにはできないとも話す。羽生氏との対談を読めば今のAIにできることとできないことが自然にわかってくる。
この本はAIとは何か、AIとどのように共存していくのかを知りたい人に役立つ。科学技術が書かれているが話し言葉でわかりやすいので、お勧めしたい。
AIの非専門家として羽生氏しか登場しないというのが、この本の欠点である。AI供給側の専門家の話も大切だが、社会がどう受容するかのほうがより大切であり、そのためには需要側の立場に立つ多様な人々、政治家から企業家、消費者までの意見を聞く必要がある。鳥海氏は「社会における人工知能応用」の研究者だから、次回の出版では社会の側の声を取り上げてほしい。