希望の党のリーダーシップ論 玉木氏に希望を持てるか

希望の党では、カリスマ的リーダーの小池百合子氏から若いリーダーの玉木雄一郎氏に代表が交代しました。この記事では、希望の党のリーダー交代の本質は何であったのか、リーダー交代によって今後希望の党という目的集団にどのような変化が生じるのか、社会心理学における二つの著名なリーダーシップ論をベースに分析してみたいと思います。

独裁型/民主型/放任型リーダー

社会心理学者のレヴィン Lewinは、【リーダーシップ leadership】のスタイルを3つに分類し、心理学的実験により各スタイルが集団に与える効果を明らかにしました。

【独裁型 Autocratic】
構成員と相談することなく、専制的にトップダウンで意思決定するタイプです。リーダーに実力があり、構成員が意見する必要がない場合に効果的です。仕事の量的な生産性が高い一方で、結果が得られないと構成員が不満を抱きやすい欠点があります。

【民主型 Democratic】
構成員と相談して合意を促した上で最終的に意思決定するタイプです。組織に総合力がある場合に効果的です。仕事の質的な生産性が高い一方で、合意形成が困難な場合には意思決定に多大な時間を要するという欠点があります。

【放任型 Laissez-Faire】
構成員にボトムアップで意思決定させ、自分は最小限の関与にとどめるタイプです。構成員が有能で目的を理解している場合に効果的です。集団の人間関係が良好である一方で、構成員間の調整と仕事が構造化されずに仕事の生産性が低い欠点があります。

希望の党の創業者の小池百合子氏は、典型的な独裁型リーダーであると言えます。市場移転案を発表ギリギリまで市場長に伝えなかったり、希望の党代表就任を発表ギリギリまで側近に伝えなかったり、独断で重要な決定を下したことは象徴的な出来事でした。非常に残念なのは、小池氏が独裁型リーダーに必要不可欠な政策形成能力を持っていない点であり、「豊洲・築地両立」「ユリノミクス」「12のゼロ」など、フィージビリティが皆無で仮に実現したら国民生活に大混乱を来すことが自明な政策を自信満々に発表し、国民の失笑を買いました。【ポピュリズム】に長けていたため[記事]、希望の党発足時には支持率が高く選挙に強い実績で【カリスマ性】を有していましたが、政策形成能力の欠如を有権者に見透かれてしまった衆院選では、結果を出すことができず、構成員から大きな不満が発生したと言えます。

希望の党の新代表の玉木雄一郎氏は、カリスマ性の欠如から【独裁型】リーダーになることは不可能であり、リーダー経験の欠如から【放任型】リーダーになることも不可能であると言えます。この場合、残された道は集団指導体制による【民主型】リーダーになることです。問題は、【民主型】リーダーが機能するのは、組織に総合力がある場合であり、与党批判に終始していた元民進党議員で構成される現在のメンバーを見る限り、総合力に大きな期待は持てそうもありません。加えて、大串博志氏を中心としてイデオロギーが異なる議員を多く抱えているため、合意形成にも困難が想定されます。この点から見えてくることとして、希望の党が目的集団として機能するためには、(1)構成員が実力をつけること、及び(2)イデオロギーが異なる構成員を説得するか排除して合意形成をしやすくすることが求められると言えます。それが不可能な場合には、(3)玉木氏が昇華して【独裁型】リーダーとして機能できる実力とカリスマ性を備えることが必要となりますが、加計問題で炎上してツイッターの発信を止めたりするなど、「男が泣くな」と蓮舫氏に言われるようなナイーヴな状態[動画](笑)から脱皮しているようには思えない現況では簡単ではないと思われます。

ちなみに、自民党の政策形成システムのリソースを有効利用する安倍晋三首相は【民主型】にあたり、都庁の役人に多くを委任して都政運営した石原慎太郎元都知事は【放任型】にあたります。スタイルは異なりますが、リーダーとしてそれぞれ一定の成果をあげていると言えます。

人間関係重視型/課題解決重視型リーダー

社会心理学者のフィードラー Fiedlerは、効果的なリーダーシップのスタイルは集団が置かれた状況によって異なることを主張しました。この考え方は【状況即応モデル(コンティンジェンシー・モデル) contingency model】と呼ばれます。【状況即応モデル】では、集団内に存在する【最も厄介な構成員 LPC: Least Preferred Co-worker】を肯定的に評価する【高LPC】型リーダーと否定的に評価する【低LPC】型リーダーに区分します。すなわち、【高LPC】型リーダーは人間関係を重視し、【低LPC】型リーダーは課題解決を重視するリーダーであると言えます。それぞれのリーダーのスタイルが、特定の集団に適合するか否かは、次に示す3つの状況によって異なります。

【リーダーと構成員の関係 leader-member relations】
リーダーと構成員の間の信頼関係が良好であるか劣悪であるかの程度を表します。例えば民主党/民進党の場合には、新代表が就任するたびに「全員野球」という言葉を口にしますが、所属議員は毎回のように代表の責任を厳しく追及しては引きずり下ろしました。この場合、リーダーと構成員の関係は「険悪」ということになります。

【タスクの構造化 task structure】
構成員が集団の目的に向かって個々が行う仕事を明確に理解して組織的に実行しているかしていないかの程度を表します。例えば民主党/民進党の場合には、政策が全く一致していない議員の集団であったため、根幹の基本政策を合意できませんでした。この場合構成員が行う仕事は「不十分」と言えます。

【リーダーの権限 leader position power】
リーダーが集団のガヴァナンスを掌握しているか掌握していないかの程度を表します。例えば民主党/民進党の場合には、代表や執行部が所属議員に対して満足に提案すらできない状態となっていました。この場合リーダーの権限は「弱い」と言えます。

これら3つの状況の組み合わせに対するリーダーの適性は下表に示す通りです。

小池百合子氏が希望の党を立党した時点においては、カリスマ性を持つ小池氏を信頼して構成員が競って集まってきたため【リーダーと構成員の関係】は良好であり、政策協定書を結んだことから【タスクの構造化】も十分であり、帝国主義のような党規約で独裁が保証された【リーダーの権限】は強固であった状況(表中のタイプ-1)と言えます。このとき、希望の党に最も効果的なリーダーは【低LPC】型リーダーであり、人間関係をリセットして課題解決を高らかに掲げる典型的な【低LPC】型リーダーである小池百合子氏は希望の党にとっては極めて効果的なスタイルのリーダーであったと言えます。

衆院選が公示され、小池氏に対するマスメディアの大バッシング報道が始まり、小池氏のカリスマ性が低下すると、柚木道義氏や小川淳也氏をはじめとする一部構成員が掌を反すように小池氏批判と政策協定違反の主張を始めました[記事]。この一連の動きで【リーダーと構成員の関係】は劣悪となり、【タスクの構造化】も不十分となり、党規約で保障された【リーダーの権限】だけが強固なままという状況(タイプ-7)になりました。この時点で【低LPC】型リーダーの小池氏は希望の党と完全にミスマッチな状態になったと言えます。さらに選挙が終わると、柚木氏や小川氏は小池氏に代表辞任を要求しました。当選ファーストの彼らの行動は有権者を愚弄するものですが、希望の党が【高LPC】型リーダーを必要としているという点では理解できる主張と言えます。このような空気を察したのか、小池氏の提案で共同代表選が実施され、希望の党は小池氏よりは【高LPC】と考えられる玉木氏を共同代表に選びました。実際、[全員野球]を宣言した玉木氏は【高LPC】型のリーダーであると言えます。

その後、小池氏が希望の党代表を辞任し、どさくさに紛れるように共同代表の玉木氏が希望の党代表に就任しました。この玉木氏の就任に伴い、希望の党をとりまく状況には変化がありました。まず【リーダーと構成員の関係】は見かけ上良好となりました。一方で、党代表選で玉木氏と争った大串氏は今後も憲法改正反対を主張するということから【タスクの構造化】が高まることはありませんでした。また、党規約の変更により【リーダーの権限】も大幅に低下することになりました。このような状況(タイプ-4)では、玉木氏のような【高LPC】型リーダーが効果的ですが、この状況が不変であるとは限りません。仮に大串氏がリーダーに反旗を翻す状況(タイプ-8)では【低LPC】型リーダーが必要となりますし、仮に大串氏が離党して【タスクの構造化】が高まった状況(タイプ-2)にも【低LPC】型リーダーが望ましいと言えます。玉木氏には状況によってリーダーのスタイルを変化させるフレクシビリティが必要となります。

エピローグ

この記事では、社会心理学的な観点から希望の党代表のリーダーシップについて考察しました。結論として、希望の党の代表交代は、状況に適ったものであり、希望の党は、これまでの希望の党よりもマシ、立憲民主党よりもマシ、そして民進党よりもマシな政党になる可能性はあると言えます。しかしながら、依然として党をとりまく状況が不安定であるため、リーダーのステアリングが極めて重要であると言えます。

あえて言わせていただければ、玉木氏が希望の党を自民党よりもマシな政党にすることを目指すのであれば、(1)ガラ空きの保守路線を堅持する経済と危機管理重視の政党を目指すこと、(2)ポピュリストの小池氏を排除すること、(3)イデオロギーが異なる大串氏を排除すること、(4)当選ファーストの柚木氏・小川氏を排除すること、(5)国民にとって不毛な森友・加計問題から一切手を引くこと、(6)与党に対して民進党のような[人格攻撃]を絶対に行わないこと、(7)立憲民主党及び民進党と今後一切連携しないこと、などを国民に約束することで、課題解決型の状況(タイプ-8)を創出し、自由と民主主義の政党として出直すことが不可欠であると考えます。

状況的には極めて困難なハードルと言えますが、選挙公約に整合的な形で立ち位置を明確にしない限り、党が近い将来ツブれる運命にあることは自明であると考えます。民進党と同じ結末を迎えることでしょう。今後の玉木代表のステアリングに注目したいと思います。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。