大相撲という謎の世界 日馬富士は北尾光司になれるか

常見 陽平

行きつけの寿司屋で聞いた話。相撲関係者がやってくるのだけど、彼らがよく頼むのがタコ。実はこれは験担ぎなのだそうで。タコは8本足。8は、勝ち越しの数字。勝つぞという意思表示なのだそうだ。

それにしても、日馬富士問題、もう何がなんだかわからない。いや、事情聴取や周辺取材などで、事件が起きた際の様子などは伝わってきている。しかし、相撲協会や、貴乃花親方の対応などが、遅い上に、元自民党の国会議員風に言うならば「ちーがーうーだーろー」と叫びたくなるものになっており。

実は私は、相撲をちゃんと見たことはほとんどない。いや、幼い頃、実家でテレビで流れていたし、今もジムのサウナで流れているのだけど、BGVというか。スクリーンセーバーのようなものである。最近、買ったAppleTV風に言うならば、いつの間にか流れている空撮映像のようなものである。

その相撲なのだけど、とはいえそれなりに興味を持っていたのは「プロレスラーの前職」としてである。最近は少なくなったが、相撲からプロレスに転身する者が一定数いたのである。いまはアマレス出身者が中心で、ほとんどいないのだが。

なんせ、日本のプロレス草創期のヒーロー、力道山は相撲出身である。この頃は芳の里、豊登など相撲出身は多数いた。そういえば、大日本プロレスのグレート小鹿もそうだ。以前、マイクパフォーマンスで会場をわかせたラッシャー木村もだ。いまや飲食店経営者として想起する方が多いキラー・カーンもそうだ。ミスタープロレス天龍源一郎や、全日本プロレスの四天王だった田上明もそうだ。まあ、他にもいっぱいいる。

もっとも、不祥事によって角界にいられなくなった者もプロレスに流れてくる。輪島や北尾(双羽黒)などがそうだ。輪島のゴールデン・アームボンバーは忘れられず。幼い頃は喧嘩で使おうとして、相手にすぐかわされたのは良い思い出なのだが。ここでは、北尾光司の思い出を語ることにしたい。

親方夫人を殴って闘争というスキャンダラス極まりない事件の後、廃業し、スポーツ冒険家(笑)を経て、プロレス入りした北尾光司は常にすべっていた。なんせ、東京ドームでの肝いりのデビュー戦が滑りまくりだった。ターミネーターを意識した衣装(?)は明らかにださく、失笑を買った。しまいには、ロープに飛ぶ方向を間違える始末だ。

メガネスーパーがスポンサーだったSWS時代には、「八百長野郎!」という伝説のMCが語り草になっている。やはり滑っていた。

そのヒール度を上手く活用したのが、高田延彦率いるUWFだった。なぜかその頃は、空手家ということになっていたのだが。この巨体のヒールを高田延彦がハイキック1発で倒したのは、インパクトのあるシーンだった。

しかし、個人的には、その後の総合格闘技での北尾についてふれておきたい。1996年4月、大学4年生の春に駒沢体育館で行われた、第1回ユニバーサル・バーリトゥード・ファイティングでの北尾。ペドロ・オタービオと対戦したのだが、体格差もあり、北尾はひょっとするとやるんじゃないかと思っていた。しかしだ、1Rでグラウンドでの肘打ちで敗れたのだった。その様子は、まるでマグロのようだった。

その試合の1年半後、1997年の10月に行われた第1回目のPRIDEではネイサン・ジョーンズ選手を相手に勝利をおさめた。会場で見ていたが、失笑・冷笑をものともせず、北尾が勝った瞬間に何か時代が動いたかのような、妙な感動をしてしまい。なぜ、北尾に感動しているんだろうという自分自身が理解できないまま、なぜか涙したような。とにかく、その場で猛烈な感動をしたのを覚えている。

toyohara/flickr(編集部)

さて、いかにも日馬富士は、昔ならプロレス入りしそうな展開だったが、実際はどうだろう。コンプライアンスに厳しい昨今では、使いづらいというのが正直なところだ。そもそも、角界からプロレスへの転身は1990年代半ばまでの動きであって、その後は減少している(というか、アマレスからの転身が圧倒的に多い)。新日本プロレス、DDTなど、スポンサーがついている団体なら使うのではないか、特にサイバーエージェント傘下となったDDTにとってはAbemaTVの視聴者獲得にとって魅力的だという考え方もあるが。厳しいだろう。

別な切り口で言うと、最近のプロレスはハイスパートなものになっており。力士出身のレスラーは身体の大きさなどがウリなのだが、今の華やかな技を受けられるのかどうかという点で不安が残る。

さて、日馬富士問題。引退によりウヤムヤになりそうだが、相撲協会と貴乃花親方はどう対応するのか。激しく傍観することにしよう。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。