日銀は26日に10月30、31日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨を公表した。色々と指摘したいところはあるが、特に興味深かったのが、下記のある委員の意見に対する反論である。
この「ある委員」とはこの会合において、「イールドカーブにおけるより長期の金利を引き下げる観点から、15年物国債金利が 0.2%未満で推移するよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した」片岡委員である。
「ある委員は、より長期の金利を引き下げる観点から、10年物国債金利に代えて、15 年物国債金利が 0.2%未満で推移するよう長期国債の買入れを行うことが適当であるとの意見を述べた。」
片岡委員はその前の会合で、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019年度頃に2%の物価上昇率を達成するには不十分であるとして、金融政策の現状維持に反対したが、対案として新たな議案は出していなかった。そもそも対案が必要なのかどうかはさておき、10月30、31日の会合では具体案を出してきたものの、それに対して複数人から反撃を受けた格好となった。
「この委員の意見に対して、何人かの委員は、15年物国債金利を引き下げた場合の経済・物価に及ぼす具体的な政策効果や、それをもたらすメカニズムが明らかでないと指摘した。」
何人かの委員が何人なのかは具体的ではないが、3、4人程度とみて良いか。ここには少なくとも片岡氏と同様にリフレ派とされる岩田副総裁、原田委員や櫻井委員ではない可能性が高い。そのあとにもう一人の委員が下記の発言をしている。
「この点について、別のある委員は、15年物金利のような超長期ゾーンの引き下げは、保険や年金の運用利回りの低下などを通じ、国民のマインド面に影響を及ぼすことが懸念されると付け加えた。」
これは発言内容からみて鈴木委員の発言ではないかと思われる。そうなると何人かの委員には審議委員だけでなく、黒田総裁もしくは中曽副総裁が含まれている可能性もありうるか。
片岡委員はこれもあってか、次の12月の決定会合では下記のように意見を修正している。
「2018年度中に「物価安定の目標」を達成することが望ましく、10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した。」
10月30、31日の会合での片岡委員の意見に対して複数人が反論してきたのは、何かしらの琴線に触れた可能性もありうるか。
10月30、31日の会合では実は下記のような発言もあった。
「大方の委員は、現在の金融市場調節方針のもと、強力な金融緩和を粘り強く推進していくことが適切であり、現時点で追加緩和を行うべきではないとの認識を共有した。」
あえて「追加緩和を行うべきではない」との強い表現としたのは何故か。ここに日銀としての本音が隠れているように思われる。これは片岡委員の追加緩和の提案に対する複数人からの反論にも現れたということではなかろうか。
現在の日銀はよほどの事態が発生しない限りは追加緩和を講じることは想定していないと思われる。これは物価目標の達成の有無に関わらずである。それは現在の強力な緩和策であれば、それで十分効果が出てくるとの認識によるものと思われる。
ただし、現実には上記反対者の言葉を借りると、異次元緩和を講じた場合の「経済・物価に及ぼす具体的な政策効果や、それをもたらすメカニズムが明らかでない」ことも確かではなかろうかと思う。それでも、これからさらなる深みにはまることは避け、量の調整も可能な現在の長短金利操作付き量的・質的緩和を継続させざるを得ないのではなかろうかと思われる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。