韓国の利上げを指摘した日銀の政策委員の意図とは

12月20、21日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見が28日に公表された。このなかで「金融政策運営に関する意見」をピックアップしてみて行きたい。

「現在の金融緩和政策のもとで、企業や家計の支出活動を支える金融環境は、きわめて緩和した状態にある。」

これについては異論はない。

「当面の金融政策運営については、これまでの方針を維持し、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、現在の政策枠組みのもとで、強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適当である。」

このときの決定会合でも金融政策は現状維持となったが、それについての説明といえる。

「息長く経済の好循環を支えて「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策を継続するべきである。」

現状維持派の意見が続く。ただし、「息長く経済の好循環」を何故、非常時の対応の拡大版ともいえる異次元の緩和政策で支えねばならないのかはわからない。

「2%の「物価安定の目標」達成にまだ距離がある現在は、金融政策は現状維持が妥当である。」

つまりまだ出口の議論は早いぞということであろうか。

「物価上昇の勢いが増す状況には距離があることから、腰を据えて、きわめて緩和的な金融環境を維持すべく、金融政策を運営していくことが必要であると判断している。」

こちらも同様。

「2%の「物価安定の目標」を実現するためには、適合的期待による予想物価上昇率の引き上げに時間がかかる可能性があることを踏まえ、強力な金融緩和を息長く続けることが重要である。」

あれほどの緩和策を打ち出したにもかかわらず、適合的期待による予想物価上昇率の引き上げに時間がかかり過ぎていることについては、どのように説明するのであろうか。

「今後、2%に向けて物価が上昇し、経済の中長期的な成長力が高まるもとでは、金融緩和政策の効果は強まることになる。そうした環境変化や政策の副作用も考慮しながら政策運営にあたることが必要である。」

「政策の副作用」という言葉が出てきた。

「海外の状況をみて「量的・質的金融緩和」の出口を求める議論が盛んである。しかし、直近の韓国の政策金利引き上げの背景を考えた場合、物価は 1.5%程度でアンカーされているといえ、実質GDPは平均3%以上で成長している。さらに、家計の債務残高はGDPの90%にもなっている。韓国の状況と比べても、日本の金融政策の転換は時期尚早である。」

なぜ、突然、韓国を事例に持ってきたのであろうか。この発言は原田委員からのものとみられるが、日本の金融政策の転換は時期尚早であることを示すのに、韓国の事例を持ち出してくる必要があるのかががわからない。

「先行き、経済・物価情勢の改善が続くと見込まれる場合には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、その持続性を強化する観点も含め、金利水準の調整の要否を検討することが必要になる可能性もあるのではないか。」

内容からみて銀行出身の鈴木委員あたりからの発言か。今後、金利水準の調整の要否を検討してくるのかどうか。副作用についての発言とともに、金利水準の微調整についての意見が出てきたことはかなり興味深い。

「消費税増税や米国景気後退などのリスク要因を考慮すると 、2018年度中に「物価安定の目標」を達成することが望ましく、10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である。」

片岡委員の発言であろう。10年以上の国債金利を幅広く引き下げれば、物価目標が達成できる仕組みについて具体的に説明してほしい、気がする。

「ETFをはじめ各種リスク資産の買入れについては、株価や企業収益などが大きく改善していることや、今後も堅調に推移すると見込まれることを踏まえると、政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討すべきである。」

こちらでも「副作用」という表現が出ている。トヨタ出身の布野委員の意見のようにもみえる。ETFの買入に対しても調整する必要はあると思う。これについては市場との対話を重視すればできないことではないと思う。

「現在の金融緩和政策は、企業の新陳代謝や規制改革によって労働生産性が高まる過程で増大する失業を吸収しうる経済環境を整えることで、労働生産性引き上げにも貢献する。」

物価はどこに行ってしまったのか。労働生産性引き上げが物価にも影響するということなのであろうが、そもそも現在の金融緩和政策、つまり国債をたくさん買っているような政策がどのように雇用に働きかけているのか。まったく影響はないとは言わないまでも、あくまで金融政策は後方支援的なものではないのかと思うのだが。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。