米国の行き過ぎた分業化による個人の無責任さ

中村 祐輔

今日はコメディータッチで。

1年間の体の疲れをとり、気持ちをリフレッシュするために、12月25日から30日までマイアミビーチに行っていた。予約をした際には想像もできなかった厳寒のシカゴを少しでも回避できたのは幸いであった。最高気温27-28度で、真夏のミシガン湖より水温は高く、海で泳ぐことができた。おそらく、もう、2度と来る機会もないので、フロリダ半島の先端に続く島々の最先端にあるKey Westまで行くつもりで、レンタカーを予約しておいた。最先端まで約250キロであり、ハイウエイとそれに続く一本道(島々が橋でつながっている)を行けば3-4時間弱で先端までいけるはずだ(った)。

しかし、しかしだ。午前9時20分に予約したレンタカー事務所に行ったが(予約時間は9時30分)、駐車場に全く車はなく、約10組くらいが待っており、事務所には険悪な雰囲気が漂っていた。しばらくして、オーバーブッキングで予約した車が手配できていないことがわかった。早い人は午前8時の予約だが、9時半でも車が手配できていないようだ。受付嬢が「少し待てば来る」と言ったが、待てど暮らせど車は来ない。まさに、蕎麦屋の出前だ。途中で怒って「もう要らない」と帰って行った人もいた。日本では考えられない、信じ難い光景である。ロシア人らしい女性は、受付嬢の言い訳を聞くたびに「ジーザス!」と声をあげていたが、ないものはない。神も仏もなく、あるのは分業化に伴う、カスタマーに対する無責任さだけだ。日本なら「申し訳ありません」の一言でもあるところだが、分業体制が極端に進んだこの国では、自分に関係ないことは知らんぷりだ。車が無いのは、彼女たちの責任ではないと割り切っている。そういえば、レストランでも、自分で皿をひっくり返したにも関わらず、「アクシデントが起こった」と他人事のように言い訳していた婦人がいた。そうしなければ、この国では生きていけないのだろうか?

話を戻すと、昔の私なら30分で怒りをぶちまけて「もういい!!」と帰ったところだが、歳を取ることは怒る気力をなくさせるものだ。米国の「Wait a minute」が「あと数時間まで含んでいる」ことを学んだこともある。激しい文句でも言おうものなら、某航空会社のように、ガードマンに力づくで事務所から追い出されるかもしれない。そして、「もう少し」を20回くらい聞いた午前11時になって、ピックアップトラックならすぐ手配できると言われた。もうヤケクソで「何でもいいから」と言ったところ、11時15分になってようやく車に乗ることができた。しかし、あまりの大きさに仰天だ!フォードF350というピックアップトラックだった。運転席に座った途端、後悔の念が湧き上がってきた。予約していた車とは、軽自動車とミニバン、駆逐艦と空母くらいの差だ。でも、ここでこの車は嫌だと言えば、あと何時間待たされるかわからない。予約など無効に等しいこの国のあり方は絶対におかしい。レストランを予約していても30分くらい待たされたことがある。飛行機など、オーバーブッキングで「300ドルで」「500ドルで」次の便はどうかとアナウンスしている場面は日常の光景なのだから。

気を取り直して、手足に力を入れて、ナビを見ながら目的地に向かったが、隣の車と接触しそうで恐る恐るの運転だ。市内を抜け、Key Westにつながる州道1号線に入ったが、渋滞につぐ渋滞で、目的地の半分まで行ったところですでに3時間以上かかって、目的地まで行くことは断念。しかも、ガソリンメーターは恐ろしい速さで「E」に向かって減っていく。しかし、島と島をつなぐ端から見る景色は美しかった。シカゴにはない、南国の雰囲気を十二分に楽しんだ、と言いたいところだが、運転に気を取られて、それどころではなかったのが本心だ。翌日は前腕部の筋肉が痛がったが、よほど力が入っていたのだろう。

レンタカーを午後5時過ぎに返しに行ったところ、受付嬢が「無事でよかった!」と一言。心の中で「それはどういう意味や。こんな大きな車しかないと言って押し付けておいて、何がよかったんや!」と心で叫ぶが、そこは大人だから声には出さない。そして、受付嬢が唐突に「あなたにこの会社のことを満足して欲しいので30ドル引きでどうだ」と申し出た。あまりに急なことなので返答を躊躇していたところ、「では、90ドルを40ドル引きで、50ドルでどうか」と言ったので、反射的にOKと返事してしまった。2時間も待たされたので、私のイライラの時給は20ドルの計算だ???「この会社を次に使う時は、米国内のどこでも20%引きにする」と微笑みながら付け加えたが、「アホか!二度とこんな会社使うかい!」と心の中で毒づいた!もちろん、私もニコッとしながら、「Thank you !」と返事した。

まあ、これが米国だと思っていたが、おまけがあった。クレジットの明細を見てびっくり。まったくディスカウントなく、90ドルが請求されていた。このレンタカー会社の名前は「En・・・・・・」。皆さん、メモしておいて下さい。それにしても、年末の休暇は鬼門だ。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。