下水道も民間参画の時代へ

浜松市ホームページ「みんなの下水道教室」より引用:編集部

浜松市が下水道事業へのコンセッション導入を決めた。また大阪市は下水道事業の外郭団体を株式会社化し、大阪府下の市町村への技術支援を始めた。さらに東京都や宮城県も下水へのコンセッション導入を検討中である。全国のこうした動きの背景には事業の持続可能性への懸念――具体には、財政問題、設備老朽化、技術者・作業要員の不足、収入減の見込みなど――がある。

我が国の下水道事業は、次のような改善余地がある。
(1)一部自治体では処理場など現場業務の民間委託が進むが、直営が多く非効率である
(2)流域下水道は都道府県が担当し、規模の経済が働くが、その他は市町村別に運営するため経営単位が小さく非効率である
(3)海外に比べ、設備も操業手順もいわゆる「過剰品質」で高コスト構造にある

包括委託からコンセッションへ

こうした状況を変えるべく、各地で処理場や汚泥処理施設の包括的な民間委託が導入され、契約でも設備や作業の基準は事業者に委ね、その創意工夫に委ねる性能発注方式が導入されてきた。

だが、効率化の最大の眼目は運転や維持管理の業務改善ではなく、設備投資の合理化である。すなわち、何十年かに一度ある大規模な設備更新の時期に省エネタイプの設備等に変え、併せて過剰品質も改める。その手段としてコンセッション方式が有効と思われる。

コンセッション方式では施設の所有権は官側に残し、運営権を民間に譲渡する。その際には料金収入の一定割合と設備更新費用を企業側に支払い、日常の運転、維持管理のみならず、設備更新も企業に任せる。従来の包括委託との違いは、期間が約20年程度(欧米の場合)と長い点と設備更新を含む点である。こうして、行政側は、長期的には従来の包括委託方式よりも低いコストによる事業運営を実現する。

コンセッションの価値の源泉は何か

なぜコンセッション方式では、設備コストにまでメスが入れられるのか。

第1に、企業側は契約開始と同時に、非効率な装置の改良投資を行う。例えば汚泥の乾燥装置を省エネタイプに変え、電球などもLEDに変える。このことで初期段階から操業コストを下げる。

第2に、耐用年数を経た設備の更新時期には、企業がそれまでの設備運営で得た知見を生かし、費用対効果を最大化するための更新計画を立て、投資額を抑制できる。その際には当該施設の運営からの知見だけでなく、他で運営してきた施設から得た改善ノウハウなども動員する。例えば海外企業の場合、我が国とは異なり、汚泥焼却と下水処理プラントを一つの制御室で管理する方式をとっている場合が多い。こうした海外の方式の導入によって合理化が加速される。

ちなみに従来の包括委託では、設備は従前のままで人員を公務員から比較的低賃金の民間人材に置き換えコスト縮減を図る。しかし、操業工程の見直しは、発注の段階で従来の行政の直営時代のやり方の踏襲が求められることが多く、合理化には限界がある。

このようにコンセッション方式ではインフラの所有権、つまり災害時などの設備復旧の権限と責任は行政側に置いたまま、日常の操業、維持管理に加えて設備更新までを民間企業の創意工夫に委ねることができる。

ちなみに下水は防災にかかわるから採算が気になる民間に任せられないといった懸念を聞くことがあるが、これは誤解だ。コンセッションに出すのはゲリラ豪雨対策などで活躍する巨大な地下水路の建設事業などの新規建設事業ではない。こうしたものは税金を投入して役所がやるしかない。あくまですでに出来上がっている施設の更新と維持管理である。また、そもそも今の我が国の下水のコンセッションの検討対象は下水にかかわる一切ではなく、処理場(主に機械で構成)などが中心だ。いずれ管路などにも広がりうるが、それにしてもダムや防波堤と同様に洪水対策で作られたコンクリート構造物は、対象とは考えない。

そもそもどこがコンセッションの対象になるのかは企業と発注者で合意し、リスクを管理できる場合にのみ成立する。一般人が想定する懸念はすべて契約交渉の中で検討され、解消できない部分はコンセッション対象から外れる。

コンセッション方式は関西空港など空港運営や愛知県の有料道路に導入され、アリーナや水道への導入も検討されているが、下水道でも期待できる。下水道については、まずは包括委託からと考える自治体が多い。しかし、維持管理費の節約だけでは限りがある。今後はコンセッション方式も検討し、設備更新の効率化に民間企業の力を借りることをお勧めしたい。


編集部より:このブログは都政改革本部顧問、上山信一氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)のブログ、2018年1月26日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。