一週間前から日本に滞在し、目が回るように忙しい一週間を過ごし、クタクタになって、今、成田空港のラウンジにいる。それにしても、日本は相も変わらず、森友問題だ。財務省の公文書改竄問題は刑事事件であり、重大な案件だが、安倍政権を倒すための印象操作が度を過ぎているように見えてならない。だれがどのように指示したのか、そこが問題の本質だと思うが、野党もメディアも、すべてがワイドショー化したかのようだ。
こんな混乱の中、米国から日本の鉄鋼・アルミニウムに対しての関税が発動された。韓国・ECなどは除外されたが、日本は除外されなかった。日本のメディアがこのことの重みをどこまで理解しているのかを考えると、暗澹たる気持ちになる。そして、ホワイトハウスから対北朝鮮穏健派が消え、強硬派のボルトン氏が任命された。これも、トランプ大統領のディールの一つかもしれないが、米朝関係がどちらに向かうのか、全く見えてこない。国難が目前にある(迫っている状況ではなく、存在しているのだ)にもかかわらず、事の軽重が全く判断できていない。
これは、日本のゲノム医療でも同じだ。遺伝子パネルを自慢げに語っている人たちがいたが、米国ではメディケイドが遺伝子検査を保険でカバーすると公表した。最適の薬剤を選ぶ、あるいは、無駄な薬剤の投与を避ければ、患者さんにとって利益が大きいだけでなく、個人個人の医療費が削減できるという判断だろう。日本の議論は10年遅れている。
また、遺伝子パネルでは、このブログで繰り返し紹介してきたネオアンチゲン治療には結びつかない。これも、世界の常識だが、日本の非常識だ。足元しか見えない人が研究費などを牛耳っている弊害が現われている。5年先、10年先を見て、戦略を立てていく必要があるのだが、近視眼的で、利権にまみれているから、どうしようもない状況でがん患者や家族が悲鳴をあげているのだ。
「エビデンスがない」と馬鹿の一つ覚えのように言っている人たちは、科学的思考能力に欠けているのだ。調べた結果として効かないことと、調べていないので効くかどうかわからないことが区別できていない。まだ評価されていないことをエビデンスがないと一括りにして否定しているから、日本から新しいことが生まれないのだ。最近のAMEDの評価もひどいコメントだった(申請者本人が公表して欲しくないと言うので、具体的には書かないが、資料は手元にある)。評価者が評価されないのは、裏取引を隠すためかと思いたくなる。すべての評価内容を公表して、評価内容の評価を受けることをやって欲しいものだ。そうしなければ、百年経っても、日本は後進国だ。
そして、いいタイミングで満開になった桜を見ることができた。古来から日本人の精神を映し出す美しい桜だ。かつて「同期の桜」という歌があった。私は、日本の中で、日本のために、日本人のために、そして、世界中のがん患者さんに貢献できる仲間を集めて、最後の一勝負をしたい。同期の桜となって、美しい花を世界に見える形で育てていきたい。そして、きれいに散り、若い世代にあとを託したい。
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。