またも失速した日本版フェアユース

城所 岩生

自民党内でも激論となった著作権法改正案

2月23日、著作権法改正案が閣議決定された。当然、自民党の了承を得ているため、今国会で成立する見込みだが、赤池まさあき参議院議員(自民党)はブログ「 著作権法改正 技術革新のための柔軟な規定へ」で、自民党内で3回にわたった会議で激論となったと指摘している。

激論となった理由は、山本一太参議院議員(自民党)がブログ「文化庁の著作権法改正案の内容に異議あり‼️〜前進どころか後退した『柔軟な権利制限』の規定(怒)」で指摘するとおり、自民党の提言をまったく反映してないため。

自民党は、近著「JASRACと著作権 これでいいのか~強硬路線に100万人が異議~」(以下、「拙著」)で紹介したとおり、「イノベーションの創出」や「消費者利益への配慮うたうなど(p138-9)、以下で紹介する後追いの対症療法的対応に終始する文化庁よりも、はるかに前向きな提言をしている。

対症療法的ニーズ積み上げ方式の限界

改正案は「知的財産推進計画2016」および「日本再興戦略2016」での提案を受けて、文化庁が検討し、2017年4月に提出した文化審議会著作権分科会報告書をもとにしている。この報告書は「文化庁報告書に見る政府立法の限界」(上)(下)で指摘したとおり、関係者から収集したニーズを出発点にしているため、現時点で把握されていないニーズには対応できないが、こうした対症療法的対応では急速に進展するデジタル化・ネットワーク化に追いつけないことはこの8年の歴史が証明している。

知財本部は「知的財産推進計画2008」で「包括的な権利制限規定」の導入、「知的財産推進計画2009」でも「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)」導入の検討を提案した。フェアユースは公正な利用であれば著作権者の許諾を得ずに著作物の利用を認める米著作権法の規定である。

文化庁はこの時も関係者から収集したニーズ募集にもとづいて検討した結果、実現した2012年の著作権法改正は、従来の改正でも追加されてきた個別の権利制限規定と変わらない4つの条文を盛り込むだけの尻すぼまりの改正に終わってしまった。

検索サービスの二の舞を演じた論文剽窃検出サービス

今回寄せられたニーズの一つが「論文剽窃検出サービス」。これは論文の内容を他の論文から盗んだり、コピー&ペーストしていないかチェックするためのサービス。2014年の小保方事件をきっかけに脚光を浴びたが、2008年に日本版フェアユースの検討が提案されたときにはニーズとして把握されていなかったサービス。

アメリカでは、学生の許諾を得ずに提出論文をデータベース化して、コピペ論文をチェックできるようにしたサービスをめぐる訴訟でフェアユースが認められた。このため、サービスを提供するターンイットイン社は現在、7億 3400万件の学生レポート、1億6500万件の雑誌論文と学術論文をデータベース化している(拙著 p117-120)。

日本のアンク社も同種のサービス(コピペルナー)を提供しているが、データベース化する際には権利者の許諾を得ると明言している(拙著 p119)。フェアユースのない日本ではこうした対応にならざるを得ないが、データベース化できないと、先輩の論文のコピペなどをチェッ クできず、論文剽窃検出サービスとしては不完全に終わってしまう。小保方事件発生後、日本の教育・研究機関が米社のサービスに走ったのも当然である(下図参照)。

論文剽窃検出サービスは今回の改正で認められるようだが、日本が個別権利制限規定を設けてサービスを合法化した時点では、フェアユースをバックにサービスを提供していた米国勢に日本市場まで席巻されてしまった点で、検索サービスの二の舞を演じたことになる(拙著 p120)。

高まる議員立法への期待

このようにニーズ積み上げ方式の検討では限界があるからこそ、「知的財産推進計画2008」で最初に日本版フェアユースの検討が提案されてから10年も経たないうちに「知的財産推進計画2016」で再提案されたわけだが、文化庁は今回も従来の検討手法を踏襲した。このため、現時点でニーズとして把握されてないサービスには対応できない状況に変わりはなく、今後も著作物に関連するような新サービスでは、米国勢に日本市場まで制圧されてしまう事例が続き、拡大し続ける日本の著作権貿易収支の赤字に歯止めがかかりそうもない(拙著 p102-4)。

このあたりに政府立法の限界があるのであれば、「文化庁報告書に見る政府立法の限界」(下)のとおり、議員立法によってこの悪循環を一刻も早く断ち切るべきである。