企業の経営リスクは、最終的には、自己資本によって吸収される。つまり、株主の負担になる。株主の立場として、単なるリスク吸収のためだけの株式に投資価値を見出すことはできない。株主は、企業が自己の本源的リスクテイクを自覚的に遂行すること、そして、そのリスクテイクがリスクに応じた利潤を生むことを前提にして、投資しているのである。
企業の本源的リスクテイクは、事業の性質に応じた自己資本の厚みを要求するから、適正なる利潤は、実金額ではなくて、資本の厚みに対する利潤率の問題として、その達成が企業経営者の責務とされているのである。
そして、その経営の責務を果たすためには、更に、本源的リスクに付随するリスクについて、資本に非効率な負荷がかからないように、適正に制御することが必要であり、また、本源的リスクテイクからの逸脱がないように、経営理念が揺らぐことなく貫徹していることが求められるのである。
特に、この後段について、投資家は、本源的リスクテイクの貫徹を前提にして投資しているのだから、そのことから発生する損失については納得でき、故に許容できても、その逸脱から発生する損失については、期待を裏切るものとして、断じて許容し得ないことに留意されなくてはならない。
いわゆる多角化について、常に疑義が呈せられるのは、それが本源的なリスクテイクの延長にあることなのか、本源的なリスクテイクからの逸脱なのか、簡単には判別し得ないからである。仮に、経営者の主観的な意図としては、本源的なリスクテイクの貫徹だとしても、投資家の目に逸脱と映るならば、その理解を得ることはできないのである。
ここで、投資家が多数の銘柄に分散投資していることを想起すべきである。各企業のリスクテイクが明確に異なるからこそ、分散効果があるのである。そして、当然のことながら、投資家は、あるリスクテイクについて、その執行が最も優れていると信じる企業を厳選して投資しているのである。こうした投資家の意図を正しく実現させるために、企業の本源的なリスクテイクからの逸脱は許されないのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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