この概念の意味するもの 似て非なるものと、非して似たるもの

高校の現代文の先生は強烈な方で。いちいち板書で難しいことをさらりと書き、深く解説する人で。文脈もそうだが、言葉の違いについて丁寧に説明する人だった。たとえば、議論と論議の違い、など。

トヨタとリクルートグループの合弁会社、OJTソリューションズの立ち上げに関わった2年間からは、トヨタ関係者からトヨタ生産方式における語句の違いを叩き込まれた。「稼働」と「可動」、「追求」と「追及」と「追究」の違いなど。

そういえば、カレーライスとライスカレーも違う。時代の変化によりカレーライスが定着したが、本来はカレーとライスの出され方が違うらしい。これらを分けて出すのがカレーライス、一緒に盛って出すのがライスカレーだ、本来であれば。

自戒を込めて。ついついサボってしまったり、無頓着になってしまいがちなのだけど、「この概念の意味するもの」「似て非なるものと、非して似たるもの」を常に意識したい。アカデミズムやジャーナリズムでは基本のはずなのだけど。

いつの間にか、言葉の意味が広がっていくということはよくあることだけど、A氏とB氏が話す同じ語句が、まったく違う意味になっているということはよくある。雇用・労動の分野で言うと、与野党ともに「同一労働同一賃金」を政策として掲げたわけだが、その言葉の意味や、実行スケジュールのイメージなどは違う。「森友問題」のように、問題が広くなりすぎて、何を論じているのかわからなくなるものすらある。

盟友おおたとしまさ氏のこのエントリーは、考えさせられるものだった。ナイスな論点整理だ。

サイボウズ青野氏らの夫婦別姓訴訟とそれに対する井戸まさえ氏の懸念。似て非なる「夫婦別姓」概念を巡って(おおたとしまさ) – Y!ニュース 

「夫婦別姓」の論点整理がされている。実は論者によってその概念や目指すところが違う、と。私自身、勉強不足だったのだが。

この記事に対する反応を見ていても、様々な温度差を感じ。ただ、議論になっているようで、なっていないような。自分のポジショントークに聞こえるものもあり。ネットならではだとも言えるけれども。

あくまで一例ではあるが、権力者、声の大きいものに迎合しないように、服従しないように、「この概念の意味するもの」「似て非なるものと、非して似たるもの」を丁寧に味わう余裕と知性を大切にしたい。

なお、まさに日本労動研究雑誌のバックナンバーには、2017年4月号で「この概念の意味するもの」を、2015年4月号で「似て非なるものと、非して似たるもの」を特集しており。このエントリーのタイトルもそこからとったのだけど。極めて秀逸な特集なので、いまならPDFで読めるので、ぜひご覧頂きたい。

「働き方改革」の不都合な真実
おおたとしまさ
イースト・プレス
2017-12-14



おおたさんとの対談本でも、概念の意味するところを掘り下げているので、ぜひご覧頂きたい。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。