債券市場の機能低下は今年に入り顕著に現れている。今年に入り、日本相互証券で10年債の直近発行された国債(カレント物)が出合わなかった日が3月13日、5月28日、同31日、6月11日、同13日、7月4日とすでに6回あった。これまでの年間の最多回数2回であり、これをすでに上回っている。2年債と5年債のカレントに至っては、出合わない日が普通になりつつある。
債券先物もここにきての値幅は5銭前後が多く、10銭を超える日がほとんどなくなってきている。なぜ債券市場はこのように急激に機能が低下してしまったのであろうか。
その背景には日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和政策がある。日銀が年間の新規国債の発行額を国債買入でほぼ吸い上げ、流動玉が枯渇している。さらに長期金利コントロールによって、10年債利回りがほぼゼロに抑え込まれ、動く余地がほとんどなくなってきている。
5月から始まったT+1と呼ばれる国債の約定日から決済日までの間が1営業日に短縮されたことも影響している。国債の入札日の翌営業日には日銀が新発債をオペで買いにくる。利払い月も10年債などはT+1となり、期間リスクが後退し、債券先物はヘッジ機能も失いつつある。
しかし、その債券先物も今年の3月2日には60銭も動いていた。正確に言うと日中、高値から60銭下落した。10年債利回りでも0.040%から0.080%に上昇するなど波乱含みの展開となっていたが、この日の債券先物の急変が、それ以降の債券市場の動きを鈍くさせたとは言えまいか。
3月2日の債券下落のきっかけとなったのが、日銀の黒田総裁は衆院の所信聴取である。「2019年度ごろ出口を検討していること間違いない」と発言したことが伝わり、これを受けて債券先物は一気に下落した。ただし、これは想定通りに物価が上昇していればの話であった。ところが「金融緩和や引き締めは、無限に続くわけではない」との発言もその前にあったこともあり、海外ヘッジファンドなどが仕掛け売りを入れたか、「黒田」、「出口」という単語にコンピュータ使った自動取引、いわゆるHFTが反応したのではないかともされた。
いずれにしても海外投資家が債券先物で仕掛け的な動きを見せた可能性は高い。結局はこのショートも買い戻せざるを得なかった。これを機会に海外投資家による仕掛け的な動きは影を潜めた。まったく参入していないわけではないかもしれないが、海外の短期筋が日本の債券先物からいったん手を引いた感もあり、それ以降、相場がさらに膠着し、現物債の売買も低迷ししてまったように思える。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。