日銀の柔軟化観測の背景を邪推、トランプ大統領の批判をかわすため?

久保田 博幸

Gage Skidmore/flickr

時事通信は20日夜に「日銀、長期金利目標の柔軟化検討=一定程度の上昇容認-7月末会合で議論」とのタイトルの記事を報じた。さらに、ロイターも20日夜に「日銀が金融緩和の持続性向上策を議論へ、長期金利目標の柔軟化など=関係筋」とのタイトルの記事を報じた。

これを受けて20日の長期国債先物(債券先物)は、一時150円41銭まで下落した。20日の15時の引けが150円97銭だったことで、50銭を超す下げとなった。これだけ動いたのは今年3月2日の60銭値幅以来となる。

これは外為市場にも影響し、20日の夜にドル円は112円台半ばから111円台半ばに下落していた。この要因としては米国のトランプ大統領によるドル高牽制発言も影響していた。

トランプ大統領は20日、ドル高や米連邦準備理事会(FRB)の金融政策をあらためて批判したほか、欧州連合(EU)と中国が為替を操作していると批判した(ロイター)。これによりドルが他通貨に対して全面安となり、ドル円も下落し、そこに上記の日銀に関する記事も重なって、ドル円が大きく下落した格好となった。

ムニューシン米財務長官は21日、ブエノスアイレスで記者団に対し、対日貿易関係は非常に良好だとしつつ、「さらに均衡が取れた公平な」貿易が必要との認識を示した。また「長期的に強いドルは米国の国益だ」と述べ、ドル高をけん制したと受け止められたトランプ大統領の発言を軌道修正した(時事)。

トランプ大統領はEUと中国が為替を操作していると批判したが、ここに何故か日本が含まれていなかった。ムニューシン財務長官の発言からも、日本に気配りしているかのような姿勢がうかがえる。

日銀が異次元緩和の柔軟化検討との報道とトランプ政権が日本に対して直接的な批判をしなかったことに関連があったのかどうかはさておき、20日の夜に報じられたというタイミングはなかなか興味深い。麻生財務大臣と黒田日銀総裁はG20でブエノスアイレスに向かっていた。週末であり、東京市場が開くまで時間もあった。

ここでもし日銀に対しても、トランプ政権から外圧が掛かるとなれば、アベノミクスを推進した安倍政権も対処に苦慮せざるを得なくなる。日銀が緩和策の柔軟化を視野に入れているとなれば、生保協会長も危惧している国債市場の機能低下を回避するため、さらには米国の動向も睨んだ動きとの見方もできなくはない。

日本の国債管理を担当している財務省としても懸念を強めているとみられる日本の国債市場の機能低下だけでなく、米国の動向も意識となれば、安倍首相もある程度、日銀の緩和策の軌道修正は容認せざるを得なくなろう。

21日の日本の債券市場では、10年債カレントの利回りが0.090%まで上昇した。0.1%に届くことはなかったものの、日銀は10時10分の定例オペにおいて、10年債カレントの0.110%の水準で指し値オペを通達した。債券先物の急落もあり、ここでいったんブレーキを掛けさせたようにもみえる。

ただし、あくまで時事やロイターの記事は観測記事という形式であり、30日、31日の決定会合でひとまず話し合われるであろうものである。修正が決定されるまでは、イールドカーブコントロールという政策には何ら変更はないことをアピールする狙いもあったのではなかろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。