【GEPR】電力自由化で日本人は貧しくなる

池田 信夫

世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだが、図のように3・11の前に比べて家庭用(電灯)は約2割、業務用(電力)は約3割、上がっている。

電気代の推移(経産省調べ)

その原因は、原発を止めたことと固定価格買取制度(FIT)を導入したことだ。原発を止めたことで供給力は3割下がったので、電気代の上昇は避けられない。こういうとき自由化したら、価格上昇に歯止めがなくなってしまう。経産省がまずやるべきことは、原発を早期に正常化して供給力を回復させることだった。

ところが経産省は「東電が弱っている今こそ自由化のチャンスだ」と考えた。これは政治的には正解である。2000年から進めてきた電力自由化の中で、発送電分離が最大の課題だったが、剛腕といわれた村田事務次官でさえ東電の勝俣社長に勝てなかった。電力会社は一次情報をもっているので、「供給が不安定になる」といわれると、役所は反論できないからだ。

そんな中で民主党政権が「発送電分離」を打ち出した。これは従来の力関係では無理だったが、3・11で東電が弱っているときならできる、と経産省は考えた。そして2016年に小口電力が自由化され、2020年に発送電分離を行うことが決まった。

原発を止めて化石燃料を燃やしたコストは「燃料費調整金」として電気代に上乗せされた(2015年以降は原油価格が下がった)。FIT賦課金を電気代に上乗せしたので、電気代はさらに上がった。東電の場合、賦課金は2.9円/kWhだから、値上げ分のほぼ7割を占める。

今まで太陽電池のコストが急速に下がって来たのは、世界的にFITで需要が嵩上げされてきたからだ。中国がFITから撤退する方向を示した今年は、世界的な「太陽光バブル」が終わり、太陽電池の需要は史上初めて減る見通しだ。

送電網は規模の経済が大きい「自然独占」だが、発電所は必ずしもそうではない。特に太陽電池のような分散型の発電インフラには、蓄電池など分散型の送電インフラが必要だ。再エネの不安定性をカバーするコストを電力会社が負担したままの発送電分離は、不公正競争をさらに悪化させる。

世界の産業用電気料金(電力中研調べ)

経産省による経産省のための電力自由化で電気代は上がり、可処分所得は下がった。電気代は定額で毎年約13万円(標準世帯)かかる「逆進的な税」なので、所得格差も拡大した。そして電気代が図のようにOECD諸国で最高水準(中国の約2倍)になった日本からは、製造業が出て行く。電力自由化で、日本人は貧しくなるのである。