夢の実現と家計規律

資産形成は、一般に、ある将来の資金使途のために、現在の所得の一部を取り除けて、資金を計画的に積み立てることを意味する。そして、それは、将来の消費という資金使途を通じて、また、現在の消費を抑制することを通じて、生活に深く結びついている。故に、計画的な資産形成には、家計の規律が必要なのである。

若い勤労層にとって、遠い将来の退職後の生活のために、現在の生活資金から、一定額を自主的に積み立てていくなどということは、高度な計画性と家計の規律が要求されることであって、理論的な想定としてはともかくも、現実的な生活感情からいえば、ほぼ不可能なことだと考えざるを得ない。

そもそも、そのような生き方は、あまりにもお利口さんすぎて、人としての自然な消費性向に反しているだろうし、社会の成長のための人間の活力の発現とは、相容れないものである。食事に喩えるならば、食事のおいしさや楽しさよりも、栄養価の計算を先行させるようなもので、むしろ、異常な生き方である。

現実的には、生活実感をもって現在を生きているなかで、遠い将来の老後生活よりも遥かに生活感の強い中短期的な目的について、資産形成の習慣と規律を学んでいく必要があるはずである。例えば、車を買い替えようとか、旅行をしようとか、浴室を改築しようとか、そういう生活に密着した資金使途のために、家計の工夫が生まれてくるのではないか。

当然に、目的を実現するには、最初に、目標金額が設定されて、次に、毎月の家計から捻出し得る金額が工面されて、結果として自動的に、目標達成の時期が推計されなくてはならないが、このとき、目的への愛着が強ければ強いほど、家計の規律は厳格に保たれて、目標達成確率が高くなるはずであろう。

目的への愛着である、目的の必要性ではなくて。

地方での生活においては、車が生活必需品になっている場合が多いから、その車が壊れて使えなくなれば、即座に買い替えるだろうし、浴室が壊れて使えなくなっても、即座に直すだろう。そのときに、手元資金に余裕があれば、それを取り崩し、なければ、ローンを組むほかない。いずれにしても、目的実現のための時間をかけた資産形成ということはあり得ない。

資産形成というのは、絶対的な必要性ではなくて、より豊かな、より良い、より楽しい生活のためのものである。あるいは、夢の実現のためのものである。だから、目的の必要性ではなく、目的への愛着が重要なのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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