15州で、家計所得が金融危機前の水準以下という実態

安田 佐和子

中間選挙を前に、民主党の予備選では格差縮小を訴える左派系プログレッシブの躍進がみられます。例えば、アレクサンドリア・オカシオコルテス候補は、日本でも大きく報じられましたよね?1年前はウェイトレスだった無名の新人が、重鎮の現役下院議員を打ち破ると、誰が想像したでしょうか?その他、マサチューセッツ州でのアヤナ・プレスリー下院議員候補、フロリダ州のギリアム知事候補や補なども、新人ながら番狂わせの勝利を果たしています。

彼らの共通点は、こちらで取り上げた格差解消です。2016年の大統領・民主党予備選で敗北しつつも、バーニー・サンダース上院議員が蒔いたサンダース旋風の種が、ここに来て芽を伸ばし始めています。オカシオコルテス候補自身、当時サンダース陣営での選挙スタッフでした。サンダース議員ばかりではありません。左派のなかでもひときわ青いこの波にオバマ前大統領も乗り、オカシオコルテス候補や前述の2人の候補に支持を表明するほどです。

ブルッキングス研究所の調査によれば、民主党の下院予備選で左派系候補への支持も広がっています。2018年に下院予備選に立候補したプログレッシブ候補は280名と民主党の候補全体の41%を占め、2016年の26%、2014年の17%から上昇しました。決選投票を含め勝利した左派候補者は、新人が多いなかで2018年に11.9%と、2016年(8.4%)と、2014年(6.9%)を上回ります。少なくとも民主党にとって、格差問題は左派系候補の追い風となりつつあることは、間違いありません。

また、リーマン・ショックから10年を経てもなお、家計所得が金融危機前の水準を回復していない州が15を数える事実にも、留意すべきでしょう。このうち、トランプ氏を選出したのは8州ですが、スウィング・ステートのフロリダ州では、プログレッシブのギリアム候補が存在感を増しつつあります。

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(作成:My Big Apple NY)

1945年以降、中間選挙は18回実施され、そのうち与党が下院で議席数を増加させたのは僅か2回。1回目は1998年のクリントン政権で、当時は2期目でした。1期目となれば、2002年のブッシュ政権のみと、勝率はかなり低いんですね。大敗を喫したのは、2010年のオバマ政権で63議席も失ってしまいました。そう言えば、当時は景気刺激策に反旗を翻したティーパーティー派の候補が多く当選し、大統領選に出馬したテッド・クルーズ上院議員も、その一人です。

現状、上院は改選数の差(共;9議席、民:26議席)から共和党が多数派を確保できる公算ながら、下院は民主党が奪取する見通しが強まっています。金融市場は、民主党が下院で多数派を握る結果より、その議席数に注意すべきでしょう。格差縮小を目指すプログレッシブが米議会に送り込まれれば、こちらで指摘されたように、財政赤字縮小あるいは積極的なインフラ投資を目指し、法人税率の引き下げ縮小を訴えかねません。もちろん、共和党が上院を維持できれば民主党がどれだけ吠えようが梨のつぶ手。そうは言っても、大統領選前にトランプ大統領の弾劾手続きを進め共和党内の結束を固めるより、レームダックを演出し不満を醸し出す方が民主党には得策でしょう。

(カバー写真:daddyodilly/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。