第4回がん撲滅サミットが11月18日に東京ビッグサイトで開催される(午後1時スタート)。内閣官房・厚生労働省・国立がん研究センター代表が「がん撲滅への戦略」を語り、その後、私を含めた3名が「がん撲滅への戦術」を語ることになっている。その後、公開セカンドオピニオンが行われる。メンバーを眺めていると、話がまとまるのか不安になってくるが、このメンバーでどんな議論が展開されるのか興味津々である。
米国では、「がんの治癒に向けた」ムーンショット計画が進められている。再発進行がんでは「延命・緩和ケア」が標準医療化されている日本で、「がん撲滅に向けた」戦略がどのように語られるのか?禁煙問題ひとつでさえまとまらないこの国で、大きなビジョンを描き、それを実行していくことは難題中の難題である。是非、国を代表する3名の方の国家戦略を拝聴したいものだ。
私は、がん患者の生存率を上げる鍵は「リキッドバイオプシー」と「免疫療法」と確信している。何十年に渡る研究者生活での経験と治験から導かれる推論の結果と言い換えてもいい。しかし、科学的思考力に欠ける医師たちが、承認されていないものすべてを科学的エビデンスがないからペテンと呼んでいる幼稚性には頭が痛くなる。
心臓移植も、骨髄移植も、分子標的治療薬も、積み上げた科学的エビデンスがあったからこそ、人での治験を実施することができたのだ。彼らの思考力の欠如と欧米崇拝主義が、日本での新薬開発を妨げてきたのだ。標準療法の先を提示できないで、何が、「国立がん研究センター」だ。どう見ても、「国立がん治療マニュアル作成センター」ではないのか。
そして、リキッドバイオプシーや新たな免疫療法によって、がんの医療体系を革命的に変えようと言うと、医療費がパンクするという批判が必ず飛んでくる。もっと「がん撲滅」に向けた提案をできないのかと悲しくなってくる。下記の図は厚生労働省から公表されたがんの検診率だが、ほとんどが50%を下回る。そして、これらの検診方法自体にも批判はある。
仮に今の検診率を50%としよう。日本において1年間にがんと診断される患者数は約100万人である。そして、半分の50万人が検診で診断されたと仮定する(この数字は大雑把すぎるのだが正確なデータがわからない)。検診で見つかったがんと比べ、症状が出てから見つかったがんは進行がんであるケースが多い。
もし、今は検診を受けていない人の50%がリキッドバイオプシー検査を受けたとする。文献や我々のデータだと、少なく見積もってもステージ1・2のがんの60%を検出することができる。したがって、今は検診を受けていないために、がんが進行してから見つかる患者の60%を早期発見できる可能性がでてくる。報告されているデータだと卵巣がんのリキッドバイオプシーでの検出率は100%近い。現状では進行がんで見つかっている患者の半分程度は早期がんで発見できる可能性がある。
手術だけで完治できれば、進行して見つかり、複数の抗がん剤や分子標的治療薬、免疫チェックポイント抗体での治療を受けるケースより、一人当たりで数百万円から、数千万円単位での医療費削減につながるはずだ。もちろん、生存率の10%程度の上昇も期待できる。再発リスクの高い患者をネオアンチゲン療法で術後に治療すれば同じことが言える。数十万人単位でこれができれば、数千億円から一兆円レベルでの医療費削減だ。検査費用が数百億円でも、1千億円でも充分におつりがくる。
そして、昨今の知見を少しでも勉強していれば、「ステージ4で治癒など考えるな」と冷徹で人間味のない言葉を発することができないと私は強く思う。これも標準化というマニュアル医療の弊害だ。目の前の患者さんに無条件で死を受け入れろと言う医療が標準医療なら、そんな標準医療はぶっ潰せばいい。今、助けられない患者を助けるように頑張るのが医療ではないのか。「一緒に頑張りましょう」と励ますことができない医療は医療ではない。
しかし、私一人で叫んでいても世の中は変わらない。日本のがん医療の維新を起こすには、若い力が不可欠だ。ぜひ、先頭に立ってがん医療を変えたいと声をあげる若者が出てきて欲しいと願っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。