水産業を成長産業に変えていくため、政府は6日、およそ70年ぶりとなる漁業制度の見直しを含む、水産改革関連法案の決定を発表しました。
この後、国会でさらに審議され、法案が可決されれば、早採り競争で量を追い求める漁業から、量の上限を定め質を求める資源管理型漁業への大きな転換点になります。
日本の海の本来の価値を取り戻し、漁業に関わる方の収入が増え、持続可能になるよう、さらに国民の皆さんがその豊かな海と共に生きていくための新しい一歩となります。
今回の法案の主なポイントは大きく以下の4つです。
1: 資源管理
漁獲可能量(TAC)を設定。TAC対象魚種は、順次拡大し、早期に漁獲量ベースで8割に拡大。個別割当(IQ)を準備が整ったものから順次導入することで、魚の早採り競争をやめ、量ではなく質を上げていく持続可能な漁業へ転換します。
2: 漁業権
養殖業の規模拡大・新規参入促進に向けて、漁業権付与のプロセスの透明化、権利内容の明確化等を行います。参入については、既存漁業者が水域を有効に活用している場合は継続利用を優先し、それ以外の場合は地域の水産業の発展に資するかどうかを総合的に判断することとします。
3: 密漁に関する罰金
ナマコやアワビなどを密猟被害が深刻な漁種を保護するため、密漁者に対する罰金を最高で3000万円まで引き上げます。
4. 補償制度
資源管理開始当初に漁獲量を抑制する必要がある場合、漁業者の所得も減ってしまうため、資源が回復するまでの期間を補償できるよう制度を強化します。
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世界的な成長産業である水産業ですが、国内については、資源管理の失敗や、漁業者の高齢化などで低迷しています。養殖を含む漁獲量は、約430万トン、ピーク時の 3分の1ほどで、魚が獲れない、獲れた魚も値がつかない小さな魚が増え、将来的には獲れなくなるかもしれない魚もでてきています。漁業者や流通事業者はそんな現実に直面していますし、土用の丑の日におけるうなぎの大量廃棄や、マグロの漁獲制限などの状況も、報道によりお茶の間に届けられています。
今回の法改正に至るまで、水産部会での働きかけに加え、行革本部長補佐の際に、行革本部から改革提言を行うことで、政府の規制改革会議の議題へ押し上げ、今回の
法案改正までこぎつけました。
しかし、閣議決定や法案通過は終わりでなくまさに始まり。そこからがむしろ重要で、いつまでに何をやるか、例えば、どの魚をいつまでに漁獲上限(TAC)の対象とし、どのような補償をいつからつけるか、など、詳細の制度設計はこれからなのです。これには、関係者の正しい理解とそれに基づいた議論、さらにそれを後押しする世論の盛り上がりが必要ですので、引き続き、知見や情報の共有とステークホルダーの活発な議論、そこから伝える人を増やして行く—- その場作りにも取り組んでいきます。
先週末開催された「G1海洋環境・水産フォーラム」も、その場づくりの一環で、一般社団法人G1の全面的なサポートを得て、水産・漁業の従事者、流通や市場関係者、食品会社、メディア、そして私たち政治や行政の関係者など100人以上の方に集まっていただきました。主な議題は「日本の水産業の未来」「トレーサビリティの実現」「海洋環境・海洋プラスチック問題」の3つで、水産改革元年にふさわしい大変有意義な議論の場となりました。
その中から、私もモデレータとして参加したパネルディスカッションで、あまり報道されないトピック、「トレーサビリティ」についてご紹介します。
漁業法改正による企業参入に焦点が集まりがちな水産改革ですが、実は改革の肝はトレーサビリティにあると言っても過言ではありません。どこで誰の手によって獲られたが見える化することで資源管理が容易になりますし、さらにどう加工されたのかも明示されるとなれば、売る側もしっかりとストーリーを伝えていくようになり、水産物の付加価値を高めることができます。
近年、スーパーマーケットでは、海のエコラベルとも言われる「MSC認証」を受けた海産物を販売するところも増えてきています。この認証は、国際的な非営利組織であるMSCが、その海産物が、海の環境や水産資源を持続可能な手法で獲られたというお墨付きを与えるものですが、パネラーのお一人であるセブン&アイHDの伊藤さんは、認証をとるためのコストについて「利益率でいうと1%くらいのダウン。たかだか1%と思わレそうだが、スーパーマーケット業界の平均利率は3%。その中で1%は大きい」と打ち明けられ、消費者の理解をどう得るかがカギだと指摘されました。
漁業者の津田さんからは、地元のスーパーでどの漁師さんがどのように処理した魚ですと、わかりやすくポップに書いて出しただけで、お客様にはその価値が伝わり、普段より2割程度高い値段で買っていただけるという体験を共有していただき、「トレーサビリティをきちんとやると高く売れるという仕組みを作れば、漁業者はすぐに取り組むようになるだろう」と、制度整備と合わせて獲る側の意識変革の必要性を主張されました。現場の方の話は本当に説得力があります。
東京海洋大の松井先生からは国内の密漁対策としてもトレーサビリティが重要との補足もありました。あわびやはまぐりなどの密漁の問題を具体例としてあげ、「密漁で特に狙われているものは中国への輸出を念頭においている。輸入や特定の高価な海産物についてはトレサビで対策が取りやすくなる」と。
このようなイベントの良いところは、ここで共有されたことが、参加された方の人数分、さらにそれぞれその先の皆さんに共有されていく、ということです。世論とはそのように盛り上がって行き、国を動かす大きな力となるのです。 ここから先、加速的に実現できるよう、私自身、止まることなく積極的に発信していきたいと思っています。