今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語が発表された。
ここ数年の中で、もっともバランスが取れているのではないだろうかというのが、「流行語大賞ウォッチャー」としての率直な感想だ。「首相案件」「ご飯論法」など痛烈な政権批判がありつつ、また天災などの事件にも触れつつ、#MeTooなどの世界的な運動もとりあげたうえ、芸能、スポーツ、ヒット商品にもふれるという、非常にバランスの取れたものだったと思う。
数年前に比べて、このノミネートの段階から政治ネタが少ないという印象。それ以上に、ヒットコンテンツやスポーツ選手の活躍が目立った年だったということだろう。
毎年書いていることだが、この通称「流行語大賞」に関する前提を確認しておこう。
- 別に公的な機関が運営しているわけではなく、『現代用語の基礎知識』や、ユーキャンのプロモーションを兼ねたイベントである。
- この時期に発売される『現代用語の基礎知識』に載っている言葉から選ばれる。出版スケジュールを考えると、9月いっぱいくらいまでに世に出た言葉がギリギリ。
- 自由国民社および大賞事務局がノミネート語を選出し、選考委員会によってトップテン、年間大賞語が選ばれる。
以下、サイトより賞の概要を転載。
とは
この賞は、1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの。
1984年に創始。毎年12月初めに発表。『現代用語の基礎知識』収録の用語をベースに、自由国民社および大賞事務局がノミネート語を選出。選考委員会によってトップテン、年間大賞語が選ばれる。
選考委員会は、姜尚中(東京大学名誉教授)、金田一秀穂(杏林大学教授)、辛酸なめ子(漫画家・コラムニスト)、俵万智(歌人)、室井滋(女優・エッセイスト)、やくみつる(漫画家)、清水均(『現代用語の基礎知識』編集部長)で構成される。
※授賞が「トップテン=大賞」の方式になったのは第11回から。それ以前は、【新語部門】【流行語部門】【表現部門】等を設け、それぞれに授賞語を選定した。
別に圧倒的に流行ったかどうかを基準にしているわけではない。ツイート数、PV数、売れた数などが基準となるわけではない。文脈、選考理由などにも注目するべきである。また、ノミネート、トップテン入りした言葉を「褒めて」いるわけでもない。
もともと、この賞が始まった1984年ごろから、限界は指摘されていた。価値観が多様化する中、流行語を選ぶ意味はあるのか、と。とはいえ、最大公約数的なことを目指しつつ、続けてきた結果、いつも間にかますます存在感があるものになってきた、という。
毎年、「こんな言葉、流行ったのかよ」という批判はある。私も最初はそう思っていた。ただ、この賞の仕組みや、始まった時期に比べてもますます価値観やライフスタイルも多様化し、格差社会、分断社会になっていることは明らかで。その批判自体がナンセンスだ。
なんでも、「ご飯論法」という言葉について、この言葉を考案し、広げただけでなく、働き方改革関連法案をめぐる議論に専門家として一石を投じた法政大学教授の上西充子先生に対して、SNSで絡んでくる輩がいるそうだ。情報リテラシーがないですと言っているようなものだ。恥ずかしいからやめなさい。ノミネートされた言葉の中では、国会でも、メディアでもSNSでも盛り上がり、認知度が高い方ではないかと思うのだが。まあ、毎年、政府批判系の言葉に対して、ネトウヨ、オンライン排外主義者が盛り上がるのは伝統芸のようなものなのだが。
おかげさまで、今年も『現代用語の基礎知識』で書かせて頂いている。担当ページからは、高プロ、時短ハラスメントが入った。ご飯論法も私のページだったか・・・。裁量労働制のデータの不備についてはふれたはずだが。
もっとも、今年も自分関連の言葉はノミネートゼロだった。いつかはノミネートされるぞと、決意を打ち固め、魂を赤々と燃え上がらせたのだ。
さあ、トップテンは何か。楽しみに待とう。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。