人生には、不思議な出会いがつきもの。その出会いが、新たな気づきと刺激を与えてくれることもしばしばですよね。
筆者が今の職場に移った時、通っていた大学の学長ご子息がいらっしゃって、そのご子息がまた当ブログの読者だったという事実に、ご縁を感じたものです。政治から医療、テクノロジー、さらにはハリウッド的雑学など、多種多様な分野でご意見を賜ることしばしばですが、ある日、その方からゲラー教授のこんなツイートをご紹介頂き、ハタと気がつきました。
近年、「politically correct(政治的に正しい、公正な、非差別的とでも訳しましょうか)」の観点から、英語で一般的な「人」を表す主語が変化してきております。筆者の記憶では、90年代半ばには既に、「人」を表す意味で「he(彼)」ではなく「he or she(彼あるいは彼女)」が使用されていました。それが簡略化され、最近では「they(彼ら)」に収れんされています。そこから派生し、「Their(彼らの)」と合わせ、単数形で扱われることが多くなりました。
性別の区別をつけない場所として、アメリカでは化粧室が普及しつつありますよね。
例文は、以下の通り。
“The employee believed their safety could not be guaranteed.”(従業員は安全性が保証されていないと確信した)
→これまでの文法のルールを適用するならば、従業員を指すemployeeが単数形なので、普通は”his”、“her”、“his or hers”となるはずです。しかし、ここでは男女を明確化しないよう、“their”が使用されています。
“Nobody in their right mind would do a thing like that.”(正気であれば、そんなことはしない。)
→こちらも、“nobody”の所有格がtheirになっており、複数形に変化しています。
性別を区別せずに表現できる単数形の”they”は、英語としても市民権を獲得しつつあります。米国方言学会(ADS)は、2015年に単数形の“they”を「今年の言葉」に選出しました。
“they”の単数形使用は今に始まったわけではありません。古くは1375年の“William and the Werewolf”で確認でき、文豪シェイクスピアの作品にも登場していたのですが、18世紀頃から複数形での使用につき厳格化を進めたのだとか。とはいえその時代に花開いたジェーン・オースティン、20世紀に活躍したバージニア・ウルフやなど、女性作家だけでなく、「ナルニア国物語」などで知られるC・S・ルイスも活用していました。”they”の普及は、ある意味で懐古的な動きと言えなくもないんですよね。
ちなみに、トランプ大統領支持と歌姫テイラー・スウィフトとの確執で知られるカニエ・ウエストがフィーチャーされた三角関係を描いたラブソング“Knock You Down”には、’Cause we had it we was magic, I was flyin’, now I’m crashin’という歌詞が出てきます。単数形の“they”の先には、パートナーを表す単数形の“we”の出番かも?
(カバー写真:Ted Eytan/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年11月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。