軽減税率なのに値上げ必至の新聞代

中村 仁

3大紙の同一料金が崩れるか

12月の予算編成期を迎え、政府は19年10月の消費税10%の実施に向け、増税後の値上げが消費に悪影響を及ぼさないよう、景気対策を次々に発表しています。私が関心を持っているのは、新聞代の値上げです。軽減税率の対象となり、税率は8%のまま据え置かれるのに、新聞代の値上げは必至だからです。

軽減税率で消費税が上がらないから、新聞料金は上がらないはずだ思いたくなります。実は、違うのです。新聞を制作するためには、用紙、インク、輪転機や各種の機器、輸送や配達におカネ(営業費用)がかかります。新聞社がこれらを調達する際には、消費税を払う必要があります。

軽減税率というのは、読者が購入する新聞の税率が8%のままという意味であり、用紙、インク、機械類を新聞社が購入する時に適用される消費税率は10%に引き上げられます。新聞代を上げなければ、税込みの営業費用が増え、利益が圧迫されます。どこも新聞経営は楽ではありませんから、新聞料金を引き上げないと、赤字に転落する新聞社も出てくるかしれません。

新聞協会によると、15年の新聞販売収入は1兆500億円、広告収入4000億円、その他収入3400億円、営業収入の総額は1兆8000億円です。これに対する営業費用は1兆7200億円(うち人件費は4200億円)で、営業利益は600億円と、わずかな金額です。「消費税引き上げで営業費用がかさむなら、値上げもやむおえない」と、政府は考えるにしても、賛否の議論は起きますね。

40円程度の値上げか

来年10月消費税が10%に上がるといっても、今から他社の動きをみながら、新聞代(末端価格)をいくらにするか、経営者は迷いに迷っているでしょう。当然、軽減税率の8%と、新しい標準税率の10%の差の間(2%)が値上げ幅の落としどころです。月決め料金の4037円に対し、結局、1%分の40円前後の値上げでしょう。4100円台には乗せたくない。そんなことをあれこれ考えているはずです。

値上げの時期はいつか。早すぎると「なぜ今なのか」と批判されるし、10月に接近すると、消費財が一斉に上がり始めており、この際、新聞購読を止めようという読者がでてくるでしょう。それに安倍政権が万一、景気下降を理由に、10月の直前になって、消費税引き上げを断念したら、新聞代の値上げを過去にさかのぼって撤回せよの声がでますね。

そこで新聞社が考えるのは、春先ころまでに値上げし、その理由を「諸経費の上昇による」とし、形としては、消費税上げとの関係を切り離してしまうことです。10月がきたら、「軽減税率の対象商品であるため」として、新聞代は据え置く。こんなシミュレーションもできます。

談合体質から決別を

次に注目したいのは、読売、朝日、毎日の3大紙の同一料金が崩れるかどうかです。戦後、長い間、同一料金が守られ、しばしば「談合ではないか」と、公取委ににらまれていた問題です。今回、何十円もの開きがでるわけでもないし、経営体力に見合った購読料を決めるべき時期にきています。

購読料の値上げをきっかけにして、「新聞が軽減税率導入の旗振りしてきたのは、けしからん」という批判もぶり返すでしょう。欧州で軽減税率を導入したのは、消費税(付加価値税)導入の初期の話で、その後、軽減税率を導入する国は少数派です。

「対象商品の線引きが煩雑で、混乱が起きる」、「いかにも低所得者対策であるような印象を与えるだけで、実際は高額商品の購入が大きい高所得層ほど有利になっている」、「軽減税率を導入すると、標準税率を高く設定ぜざるを得ず、結局、国民全体につけが回る」などがその理由です。

新聞の部数減を懸念した新聞業界は「知識には課税せず」とかいう理屈を持ち出したのです。新聞社が制作している電子版は標準税率(10%)、NHKの視聴料も標準税率です。「これらは知識ではない」というのでしょうか。苦しいところですね。

新聞業界の経営力の低下を防ぐには、デジタル化に見合った取材・編集体制、印刷体制(分散工場)の集約化、販売店網の合理化と多角経営化、人件費の抑制、夕刊廃止の検討などが課題です。紙による新聞印刷は当分、続くとしても、今のような大部数を維持することは難しくなる一方でしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。