『日本の書店がどんどんつぶれていく本当の理由』という星野渉氏の記事を読んで、共感する部分が多かった。
書店経営が苦しいのは、粗利益率が25%程度と低いのが原因であると星野氏は指摘する。その上で、出版と流通が75%を取るのは書店からの返本を認めているからであり、返本制度をやめる代わりに粗利を米国並みの40%まで上げるべき、と星野氏は主張する。
この主張には一定の合理性がある。出版・流通の取り分を変えずに粗利を25%から40%に引き上げるには、書籍の価格を25%値上げする必要がある。1000円の本を1250円に値上げすれば、出版・流通の取り分は750円のままで、書店の取り分を250円(25%)から500円(40%)に倍増できる。
しかし、この値上げは出版社には受け入れがたい。消費税を10%に引き上げるのを目前にして出版業界は軽減税率の適用を求めている。その理由は売り上げ落ち込みへの懸念だから、25%値上げなど受け入れるはずはない。そこで、星野氏は返本制度の廃止を持ち出した。
書籍が定価販売されるのは再販売価格維持制度があるからだ。一方、書籍は委託販売制度に基づき書店に陳列され、売れ残りは出版社に返本されるようになっている。今までは返本リスクを出版側が背負っていたが、返本制度を廃止して書店がリスクを取るとなれば、書店は値引き販売などの自由を求めるようになるだろう。つまり、星野氏は再販制度の廃止を主張しているに等しい。
再販制度は独占禁止法では違法だが、書籍については独禁法の適用を除外することになっている。2000年前後に公正取引委員会は再販制度廃止を検討したが、出版業界は文化的使命を訴えて退けた。出版業界が軽減税率の適用を求めるのも、出版は文化を支えるというのが理由である。
出版業界は「強いて優先順位をつけるのであれば、紙の出版物についてのみでも、ぜひとも軽減税率を認めてほしい」と、電子書籍への軽減税率の適用を強くは求めていない。出版業界は紙の本の世界から抜け出しておらず、星野氏の記事も電子書籍には言及していない。一方で公正取引委員会は電子書籍を再販制度の対象外と判断している。民間業界よりも規制官庁のほうが先を歩いている。
全国出版協会の発表では、紙の書籍の売り上げは2017年に7152億円(前年比3.0%減)に対して、電子書籍は12.4%増の290億円となっている。まだまだ電子書籍市場の規模は小さいが、紙が減少し電子が増えるのは経年的な傾向である。電子化が進めば、リアルな書店、特に地方書店は一層経営が厳しくなる。その日に備えて、出版業界に生きる星野氏の提言を真剣に検討すべきだ。