高知市の「沢田マンション」を御存じだろうか。
オーナー御夫妻が、40年以上かけて、自分たちの手で作ってきたマンションだ。中は、まるで迷路のよう。約100の部屋があるが、一つとして同じ間取りはないという。
配管はむき出し。コンクリートは打ちっぱなし。凸凹が半端ない。北側の通路は、下の階の採光を良くするため、鉄格子。大雨が振れば水浸しになるという。
当時、1機数百万円するエレベーターをつけるお金がなかったので、まずは、代わりに緩やかなスロープをつけたという。だから、4階まで車で上がることができる。自由で、柔軟な発想でつくった最先端建築だ。
ジャングルのような共用のベランダを通らなければ、家に入れない部屋もある。自ずから挨拶やコミュニケーションが生まれる。東京大学名誉教授の内藤廣先生をして、「あそこは、集まって住むことの楽しさが、見事に生まれているところです。」と言わしめた。
「自然と共に暮らしたい」と、通路は鉢、蔦。屋上は畑が所狭しと並ぶ。孫のために作った大きな池もある。豚を飼っているのには驚いた!
ワイルドだからこそ発想力が沸き上がってくる。今では、多くのアトリエやお店が入居する。六本木ヒルズ顔負けの職住接近の空間だ。
1階のレストラン「藁屋」。沢田マンションの雰囲気とは好対照な、お洒落な空間。地元の野菜を生かした定食やカレーが食べられると大人気だ。美味しかったのでコーヒーとケーキまでいただいた。
『沢田マンション物語』によると、お金がなくて困っている人からは家賃を取らなかったことも、夜逃げで家賃を踏み倒されても笑ってすませたこともあるという。
お金がないからこそ自分で作って工夫し、お金を求めないからこそ独特の空間が生まれた。高知に行く際にはぜひ足を運んでほしい。
※沢田マンションは、100人以上が暮らしている居住空間ですので、見学には事前にオーナーに連絡する、のぞき見はしない、屋上等許可された区域以外では撮影しない等のマナーを守ってください。
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<井上貴至 プロフィール>
編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2018年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。