今回のカンボジア訪問の主たる目的は、IT事情の調査です。ベトナム、カンボジアを始めアジアのIT事情がどうなっているのか。そして日本がIT分野で、どのような貢献が出来るのか。逆に何を学ばなくてはいけないのか。日本企業との連携はどうあるべきなのか?日本が1国だけで経済を伸ばせない以上、アジア諸国との連携は大切であり、特にITは成長するスピードも速く、伸るか反るかを判断しなくてはいけません。
日本ですら先陣をきっているわけでもない状況下で、自らの役割を見出すことが大切になってきたのです。カンボジア版ウーバーの「PassApp」が街に溢れ、スマホで簡単に呼べる。所謂、銀行ではないフィンテック企業「Wing」での資金決済がスマホで行え、街場には現金とのやり取りが出来る受付窓口が設置されている。カンボジアは、今、新たな時代の大きなうねりが起こり始めている。
カンボジア資本、あるいは日本資本のカンボジアIT企業に訪問し様々な意見交換を行ってきました。カンボジア資本の企業としては、フィンテック企業のWing、システム開発企業のIGThech、BIzSolution。日本人経営の企業としては、ラストマイルワークス、パイプドビッツカンボジア、SocialCompass等です。ベトナム程ではありませんが、日本のIT企業の進出も始まっています。
IT人材が不足していることもあり、自社で雇用した後、教育訓練を行っている企業も多く、もちろん他企業からの転職組も。転職の理由は、会社の転居で家から遠くなったとか、家族の理解が得れないとか、金銭面以外の理由も多いと言いいます。育てた人事が抜けないように、企業に留まってもらうための人事制度等の工夫が必要とのこと。ウエットな関係も大切という意味では、家族的経営という昔の日本の経営スタイルが合うのかもしれない。どちらにしろ、日本企業はカンボジア人の思考回路や風習がわからないので、最初は苦労すると言います。
カンボジア政府やプノンペン市と言った行政機関が、ITスタートアップを支援する具体的な施策はまだ無いそうです。自力に任せて育っているという言い方が正しいのかもしれません。日本ほど規制は無いし、チャレンジする環境が存在しているのかもしれない。しかし、ITスタートアップとして起業する人が少ないので、施策をつくるまでに至っていない、という見方の方が正しいと思います。
社会課題を可決するするために起業し、それが儲かるという、エコシステムが目に見えるとチャレンジする人が増えてくる事は間違いないのです。それには、社会課題の見出し方、解決の手法、仕様の作成、運営上のネットワーク構築、資金調達、実証・実装、国内展開、海外展開等、スタートアップ支援拠点のサポートが必要となってきます。自力で全て行うより、専門的支援を導入したほうが効率性が高まるからです。
プノンペンでも、カンボジア人で起業する人達も出てきていて、Coworking Spaceが出来始めているようです。現地の日本語新聞「PhnomPenh Press Neo」によると THE DESK 、Emerald HUB 、OUTPOST 、Co WORKING TODAY 、OFFICE ORIGIN 、IMPACT HUB 、SAHAKA 、FactoryPhnompenh と言ったCoWorking Spaceがあるようです。僕はこの中で、LAST MILE WROKS社が入るFactoryPhnompenhを訪問しました。
LAST MILE WROKS社(代表取締役小林雄)は日本人が経営するVRコンテンツ制作会社です。住宅やマンションの外装・部屋等を図面や写真を参考にして、カンボジア人エンジニアが、VRをつくるビジネスを展開しています。日本の住宅やマンションデベロッパー、不動産販売会社が顧客で、今後は都市開発や街づくりが進むアジアにもマーケットを広げるということです。小林社長は、筑波大学卒業後、単身でカンボジアに行き、カンボジア企業で働いて起業したという、たくましい日本人の若者代表です。
FactoryPhnompenhは繊維工場をリノベしている3.4haのCoworkingSpaceです。ここはJ.Corbett.Hix、Kwan Kim Leang等が中心に運営を行ってるそうですが、小林社長は、この場所に自分の企業を構えているだけではなく、全体の運営にもかかわっているそうです。入り口には「Dream Come True」の看板が大きく掲示され、さながらシリコンバレー調の雰囲気です。繊維工場をリノベーションしているので、とにかく広く、17棟の建物があるそうです。
入り口付近には、交流・イベントスペースがあり、脇にはシェアオフィス用ビル。奥には工場の母屋を残したスペースがあり、ここは実証実験等を行うことも可能と見受けられる大スペース。ITだけでなく、それに付随する新たな製造業も対応できる広さがあります。遊びの場所も用意されてて、スケートボード場、トランポリン場があり、バイク、自動車の大きな駐車場も用意されている。面白いのは、工場が稼働しているエリアもあり、この開発で必要な具材を製作しているという。更に奥に進むと、一番奥は、居住スペースであるマンションが建設中でした。
こうした場所が、企業間の交流を高め、投資家と起業家の接点が生じ、新しい経済を作り上げていくことに繋がるはずです。しかし、ただ集めれば成功するというものではありません。スタートアップ育成を担う専門の支援拠点がそこに介在し、企業家、投資家、政府、海外拠点をネットワーク化し、スピーディーにサポートする仕組み、そして人材育成までを踏まえた制度設計を作り上げ、実行できることです。
日本の貢献は政府がODAを使い、橋や道路を整備するだけではありません。ハードの整備は一過性のものにしか過ぎません。長期にわたって支援し、逆に支援され、パートナーとして両国が発展していく事が大切です。そのために政府は、民間企業に支援拠点をつくりを依頼し、国としてもサポートし、両国間の橋渡しをすることが重要です。支援拠点を政府、あるいは政府系団体が運営しても決して上手くいはきません。
企業だからこそ、育成に成功すれば、収益につながる構造が無ければが、誰も本気で取り組むことが出来ないからです。政府機関にインセンティブを与えると言うなら、わかりますが、現況ではあり得ません。以前、僕はアジアの国に税金を使って技術等のサポートをし、日本企業の力がそがれる事に対し、否定的な見解でした。しかし、ほっといても各国は経済発展し、技術力を高めていく事を考えれば、初めからパートナーとして、お互いの役割を明確にしながら、共に発展していくことを考えるべきと思っています。これからの日本は特にそうです。
ODAは、ハードの援助を対象としていて、ソフトウェアは基本的に対象になっていません。スリランカにマイナンバー制度を取り入れてもらうためにスリランカの大統領に会いに行きましたが、システムはODAにならないとJAICAに言われたことを思い出します。紙の住民基本台帳をデジタル化している現場を見に行き、データセンターを見に行き、日本のマイナンバー制度を導入出来たら、お互いが国家の基本プラットフォームを同じ様式にできる。これはお互いの発展につながると…。もちろん日本と全く同じシステムは高額過ぎるのでブロックチェーン等の更なる技術で置き換えて提供すればよいと…。
国家のプラットフォームは法律だけではありません。日本政府は、法律づくりのサポートをしているけれど、国家のコンピューターシステムというプラットフォームはサポート出来ていないのです。次の時代はハードを捨ててでもソフトをとるべきなのです。これからは、ODAでコンピューターシステムのサポートをして、民間のスタートアップ支援機関に起業のサポートをしてもらうという2方向での貢献が、将来の日本経済にプラスに繋がる方法論であると思います。カンボジアで始めることが出来れば一歩前進です。
編集部より:この記事は元内閣府副大臣、前衆議院議員、福田峰之氏のブログ 2019年1月6日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。