今年の金融市場は波乱の幕開けとなった。年末年始での米株やドル円の下落を受けて、大発会となった4日の東京株式市場は売りが先行し、日経平均は一時700円を超す下げとなった。
世界的な景気減速懸念などから、年末年始に米債は買い進まれたことから、4日の日本の債券市場では10年債利回り(以下、長期金利)は一時マイナス0.050%に低下した。
4日の米雇用統計で非農業雇用者数が予想を大きく上回った上に、FRBのパウエル議長が、正常化について大幅に変更することをためらわないと述べたことが好感されて、4日の米国株式市場は大幅に反発。米債はリスク回避の巻き戻しから売られた。
7日の日本の債券市場も米債安から売りが先行したが、地合が大きく改善することは考えにくく、このまま長期金利のマイナス化が定着する恐れがある。
FRBの利上げペースが後退というか、今年の利上げ見送りあたりまでは市場でもある程度は想定できていた。それがFRBのパウエル議長の発言で裏付けられた格好となった。それはつまり世界的な景気減速への懸念は引き続き強まっているということにもなる。
米中の通商問題の行方も混沌としている。トランプ大統領そのものが市場でのリスク要因となっているが、壁の建設を巡っての民主党との対立も解決の糸口も見えていない。
世界的な景気減速への懸念や米国を主体としたリスクの高まり、そのリスク回避による米債高や円高の動きは、日本の国債にとっては買い要因となる。さらに日銀のマイナス金利政策と長期金利コントロールによって、長期金利のある程度(マイナス0.2%?)あたりまでのマイナス化は容認される格好となり、これらの金利低下要因が長期金利のマイナスを深掘りさせる可能性も出てきている。
この長期金利のマイナス化でいったい誰が喜ぶと言うか、得をするというのであろうか。しかも背景が景気後退を意識したリスク回避ということであれば、株式市場は下落傾向となり、円高が進行することにもなりかねない。これにより企業の借り入れ需要が後退する可能性がある。
そもそも長期金利がマイナスとなっても貸出金利がマイナスになることは考えづらく、少なくとも企業や個人にとっての恩恵はなく、むしろ滞留している資金への利子が付かない、もしくは国債での運用時(個人向け国債は除く)ではマイナスとなってしまう事態ともなる。それは見えないところでの我々の損失とも言えよう。
むろん長期金利のマイナス化によって助かっているところはある。それが大きな債務を抱えた国となる。財政悪化を見えにくくさせている。国債を大量に保有している日銀も評価上は助かるかも知れないが、ここから株式市場が下落すると、保有するETFなどが評価上はマイナスとなる可能性もある。
マイナス金利政策とはいったい何であったのか。それを行っても、いっこうに物価は上がってこないどころか、日銀は物価の予想を下方修正するとの観測も出ている。マイナス金利政策により負担を負っているのは我々である。それによる効果は出てこないのであれば、マイナス金利政策そのものを止めてしかるべきではないか。しかし、リスク回避の動きを強めるような状況下、それも困難になりつつあることも確かである。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。