フルサイズミラーレス一眼市場でパナソニックが善戦する方法①

長井 利尚

先日、アゴラに寄稿した通り、ミノルタのカメラ事業を継承したソニーが開拓したフルサイズミラーレス一眼市場に、2018年のニコンとキヤノンの参入に続き、2019年3月末にはパナソニックが参入することが明らかになった。

パナソニック社「LUMIX」公式サイトより:編集部

ニコンとキヤノンの参入の理由は、ソニーにこれ以上、高収益なフルサイズ一眼市場を荒らされたくないことだと私は認識している。一方、フルサイズ一眼レフを手がけたことがないパナソニックの参入の理由は、現在のところ、うまくいけば高収益を期待できそうなフルサイズミラーレス一眼市場での利益確保にあるのだろう。

パナソニックは、「LUMIX」ブランドで、2001年からコンパクトデジタルカメラ、2006年からフォーサーズ一眼レフ、2008年からマイクロフォーサーズミラーレス一眼を市場に問うてきた。パナソニックは、ニコン、キヤノン、ソニーの三強とは違い、社名とは違う「LUMIX」ブランドでカメラを展開している。

ニコンとキヤノンは、プロカメラマンが愛用する高級カメラを長年に渡って作り続けてきたので、カメラ業界におけるブランドイメージは非常に高い。ソニーは、ミノルタの一眼レフ事業を譲り受けたのを機にデジタル一眼レフ市場に参入したので、1985年以来の「α」の機種名を今でも大事に使っているものの、ブランドと社名は同じである。昔ほどではないにせよ、「ソニー=高級オーディオビジュアル機器メーカー」というブランドをカメラにも活用している。

パナソニックが、 社名とは違う「LUMIX」ブランドでカメラを展開している理由は、「パナソニック=白物家電メーカー」というイメージが強すぎて、高価格、高収益なカメラのブランドに社名を使うのは不利だと判断しているのは明らかだ(かつて京セラが「CONTAX」ブランドで一眼レフカメラを製造販売していたのに似ている)。

ところで、コンパクトデジタルカメラ市場は、近年、スマホに侵食され、市場規模が大きく縮小した。2018年6月4日付の日刊工業新聞記事「出荷台数は7年で5分の1に、デジカメ各社は撤退か新開拓か」は、以下のように報じている。

特にこの1年で撤退の動きが相次いだのがコンパクト型(通称コンデジ)だ。カシオ計算機はコンデジ事業から撤退すると公表。同社のコンデジの売上高はピークだった07年度の約1300億円から10分の1以下にまで激減し、撤退に追い込まれた。ニコンやオリンパスも中国でのコンデジの生産撤退を決めている。

一般社団法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)が2018年3月に発表した資料3頁によれば、2008年頃がコンパクトデジタルカメラの出荷数量のピークであり、その後は急激な右肩下がりになっていることが一目瞭然だ。デジタルカメラの売り上げに占めるコンパクトデジタルカメラの割合が大きかったパナソニックが危機感を募らせるのは当然である。

一方、資料6頁を見ると、レンズ交換式カメラの平均出荷単価は、2011年頃までは下がり続けたものの、その後は右肩上がりにV字回復している。これは、企業努力の賜物としか言いようがない。

一般社団法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)資料より

グラフを注意深く見ると、当初は一眼レフ(SLR)の平均出荷単価より安かったミラーレス一眼(Non-Reflex)の平均出荷単価が、2016年以降は逆転しているのである。この逆転劇をもたらした主な要因は、ソニーが2013年から市場に投入したフルサイズミラーレス一眼が売れていることと断言しても良いと思う。

コンパクトデジタルカメラの平均出荷単価も2011-12年頃をボトムに上昇に転じている。大型センサーや超高倍率ズームレンズを搭載した、スマホには真似のできない高級機を揃え、安価な機種の製造販売をやめたことがその要因である。しかし、平均出荷単価の回復は緩やかであり、V字回復とは言い難い。

資料10頁「デジタルカメラ タイプ別構成比推移《金額》」を見ると、2017年には、ミラーレス一眼が28%まで伸長し、一眼レフは45%にまで落ちている。

一般社団法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)資料より

資料12頁「レンズ交換式 タイプ別構成比推移《金額》」を見ると、2017年には、ミラーレス一眼が38%にまで伸長しており、レンズ交換式カメラ市場において、主流が一眼レフからミラーレス一眼に交代する時期は、もはや秒読み段階に入ったと判断しても良さそうだ。

一般社団法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)資料より

資料16頁「レンズ交換式 地域別構成比推移《数量》」を見ると、日米が縮小傾向にある一方、日本を除くアジア市場が急伸していることが伺える。地域別の平均出荷単価を示すデータはこの資料にはないので、日本を除くアジア市場で販売されているレンズ交換式カメラの平均出荷単価が、日米欧のそれと比べてどの程度なのかは不明である。ただ、ソニーのフルサイズミラーレス一眼を使っているアジア人観光客を日本国内の観光地で目撃することは多い。

一般社団法人 カメラ映像機器工業会(CIPA)資料より

日本を除くアジア人富裕層の多くは、日本人と違って、カメラ市場において、ニコンとキヤノンがソニーより高級なブランドであるという認識を持っていないようだ。そして、何十年も前から一眼レフカメラで撮影を続けてきた人はとても少なく、過去のレンズ資産が足枷とはならないので、ソニーのフルサイズミラーレス一眼を選んだのだろうか。フルサイズミラーレス一眼用のレンズ数を比較すると、ソニーのレンズラインナップ(26本)は、現在のところ、ニコン(3本)・キヤノン(4本)を圧倒的に引き離している。

パナソニックは、ソニーがフルサイズミラーレス一眼市場で成功するのかどうか、注視し続けてきたはずである。ソニーは、ミラーレス一眼に、当初はフルサイズより一回り小さいAPS-Cセンサーを搭載した機種を投入していた。その後、主力をAPS-Cからフルサイズに移した。パナソニックは、フルサイズより二周り小さいフォーサーズセンサーを搭載した機種でレンズ交換式カメラの市場に参入したので、ソニーの動向とソニーのフルサイズミラーレス一眼に対する市場の反応が、気になって仕方なかったと思う。

百戦錬磨のニコン・キヤノンが挑戦者を寄せ付けなかったフルサイズ市場に、ソニーが楔を打ち込んだのを見て、パナソニックは驚いたことだろう。現在は、ハイエンドカメラがフルサイズ一眼レフからフルサイズミラーレス一眼へ移行する過渡期である。一眼レフに過剰適応してきたニコン・キヤノンに隙がある今のうちに攻め込めば、フルサイズ市場で、あわよくば15%くらいの市場シェア獲得をパナソニックが期待しても不思議ではない。

それでは、パナソニックは、どうやって難攻不落のフルサイズ市場で戦えば良いのだろうか?

(その2に続く)

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo Office