政府は、特別養子縁組の対象年齢を6歳未満から15歳未満に拡大するという方針を固めたという。2017年6月法務大臣から対象年齢の引き上げを法制審議会に諮問し、その答申結果を踏まえて法改正を行うという意味のようです。
その年には厚生労働省も年齢引き上げが必要との報告書を出しています。共同通信は、年齢引き上げを前提に児童相談所を所管する69自治体にアンケート調査をとっており、その結果は30%が18歳未満、7%が15歳未満、12%がそれ以外、51%が判断できないと答えています。
衆議院議員時代に「児童の社会的養護と未来を考える議員連盟(会長:塩崎恭久)」の事務局長として実務を担っていました。「政治は太陽のようでなくてはならない。誰にでも公平に陽が降り注ぐように。」という僕の政治理念そのものが正に児童の社会的養護という政策課題なのです。
今回の改正議論では年齢だけではなく、裁判所による判定結果が出る前なら実父母の同意撤回が可能という条件から、2週間経てば撤回できないようにするという議論。家庭裁判所の審判に対する申し立てを養父母からだけでなく、児童相談所長による申し立ても認めるという議論等があります。迅速に特別養子縁組が出来るように施策を整えるのは大切なことと思います。
今、社会的養護を必要とする子供たちの多くは、実父母の虐待が原因です。本来、子供にとって最も信頼でき、何があっても守ってくれるはずの実父母から虐待を受ける事になれば、大人を信用しない、家庭を信用しない、しいては社会を信用しないという心が形成されてしまいます。家庭を含めた社会の在り方や教育、就職も、結局大人が教える事から始まりますから、成り立たないということになります。
だからこそ、出来るだけ家庭的な状況で暮らしてもらい、父母の役割を担ってもらえる大人が必要となるのです。その為に児童養護施設は小規模化に進み、グループホーム、ファミリーホーム、里親、そして養子縁組と施策を推進してきたのです。
特別養子縁組は、その根幹をなしていく制度です。何故、今まで6歳未満としてきたのか、と言えば、出来るだけ早く新たな親(養父母)と一緒に暮らしてもらいたい。幼児という父母の庇護が最も重要な時に、本当の親子になって生活してもらいたいという思いからです。一方で、子供が幼い時、実父母は虐待を止めれて、家庭の再構築が出来るのでないか、という思いを持つ人もいて、親子関係を失わせる同意を得ることが大変という現実もあります。
家庭の再構築は誰の為なのか、親の為なのか、子供の為なのか。実父母、児童相談所職員の方が、再構築にこだわると判断が先延ばしになり、特別養子縁組の機会を失ってしまうこともあるのです。15歳に年齢制限を引き上げるということは、決断が先延ばしにもなるということであり、幼児の時代に新しい親(養父母)の下で、新しい生活を始めるという機会が損なわれることも考えられるのです。
大切なことは出来るだけ幼い時に、養父母の下で本当の子供になるということです。特別養子縁組を増やすという方向は同じなのですが、それが15歳に年齢を引き上げるという方法論が良い事なのか、という事です。
大変に厳しい状況下にある児童相談所の役割を見直す、職員を増やす、弁護士を配置する。家庭裁判所のスピーディーな判断を促す。実父母の権限を低める。社会的養護を必要とする子供、養子縁組を求める親・里親のデータベース管理によるマッチングを確立する。6歳までに特別養子縁組が終えられるように施策・予算を拡充することの方が先決と思います。
国民は何故、国家に納税するのか、政府はさせるのか。社会的公平を担保する財源に使う為のはずです。子供は実父母を選ぶ事は出来ず、虐待されるのも子供が原因ではありません。納税者でもない有権者でもない幼い子供たちに陽を当てることなくして、公平な社会など出来るわけがないのです。
この分野にこそ、人材と財源、それに基づく施策を充実させるべきなのです。予算が無い、人材がいない、それは言い訳であり、割り振りの問題のはずです。施策を充実させてやってみる、それでもダメなら15歳にというならわかるのですが…。
編集部より:この記事は多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授、福田峰之氏(元内閣府副大臣、前衆議院議員)のブログ 2019年1月23日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。