ファーウェイが国連を支配する日

長谷川 良

国連・国際機関での中国の影響力が急速に拡大してきた。習近平中国国家主席は国連・国際機関を利用して新シルクロード「一帯一路」を促進する一方、政治的影響力の強化に乗り出してきている。

国連での中国の2019~21年通常予算の分担率は7.921%から12.005%に上昇し、日本を抜いて米国に次いで第2位に躍り出た。中国は資金面だけではなく、国連の経済開発機関である国連開発計画(UNDP)、国連経済社会局(UNDESA)などを積極的に活用する一方、人材面でも中国共産党出身の幹部を国連・国際機関に積極的に送っている。

中国出身で国連・国際機関のトップに現在就任しているのは、ジュネーブに本部を置く国際電気通信連合(ITU)の趙厚麟事務総局長とウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長(元中国財務次官)の2人だ。

趙厚麟氏(左)と李勇氏(ITU、UNIDO公式サイトより:編集部)

ITUの趙厚麟事務総局長は、「中国企業は国際通信のスタンダード化に積極的に参加すべきだ」と主張し、中国企業が5G(第5世代移動通信システム)時代の主導権を握ることを支援している。通信世界は現在、4G(LTE)よりも超高速、超大容量、超大量接続、超低遅延が実現する5G時代に入った。中国の通信関連大手ファーウェイ(華為技術)は2020年に実用化を計画している。

李勇UNIDO事務局は昨年4月の中国メディアとのインタビューの中で、「UNIDOは中国共産党と連携し、習近平主席が提唱した『一帯一路』関連のプロジェクトを推進させてきた」と述べている。「一帯一路」(The Belt and Road Initiative)は2013年に開始されたプロジェクトで、南東アジア、中央アジア、中東、欧州、アフリカなど60カ国を超える国々を陸路と海路で結びつける“新たなシルクロード”と呼ばれている。李事務局長からは、「UNIDOがその大プロジェクトの推進役だ」といった自負心すら感じる。

李事務局長はまた、2015年に公になった中国共産党の「中国製2025年」戦略(Made in China 2025)を支持する考えを明らかにしている。同戦略はロボット技術、宇宙開発など先端分野で中国が2050年までに超大国となるという習近平国家主席の野望に基づくものだ。いずれにしても、趙厚麟事務総局長も李勇事務局長も、多数の加盟国が所属する国際機関のトップというより、中国共産党政権の野望を実現するために戦場に派遣された中国人民軍司令官といった感じがする。

中国は経済・金融関連の国連・国際機関に党幹部を積極的に派遣している。その代表は世界貿易機関(WTO)だ。中国は2009年にWTOに加盟して以来、発展途上国のステイタスで多くの恩恵を受け、5年間で急速に経済成長し、世界最大の輸出国になった。2013年には中国商務省次官の易小準 (Yi Xiaozhun)氏 が市場アクセス部、サービス貿易部、知的所有権部、経済調査・統計部担当の事務局次長に選ばれて以来、WTOでの中国の影響力を更に拡大している。

中国はWTO加盟後、国際通貨基金(IMF)や世界銀行での影響力拡大にも乗り出している。2011年、IMFのクリステーヌ・ラガルド専務理事は朱民(Zhu Min )氏(中国人民銀行副総裁)を抜擢し、2015年には同氏は筆頭副専務理事に選出されている。同氏は2015年、IMFのSDR(特別引出権)に中国人民元を採用している。

朱民氏の後任に選出された中国人民銀行副総裁の張濤氏(Zhang Tao)は昨年、中国国営放送CCTVのインタビューで、「現在の世界経済の最大懸念は米国が始めた貿易戦争だ」と述べ、トランプ米大統領を厳しく批判している。同氏は中国共産党員だ。

一方、国連や国際機関に積極的に人材と資金を送る中国と好対照なのはトランプ米政権だ。大統領に就任して以来、トランプ大統領は国連機関を「米国民の税金を浪費するだけで成果のない機関」として、何度も批判してきた。同時に、国連の各種機関への資金援助を削減した。また、国連教育科学文化機関(ユネスコ)から脱退する一方、国連人権理事会からも離脱を宣言したばかりだ。トランプ氏の下で米国の“国連離れ”は着実に進んできた。“国連離れ”を見せる米国に対し、中国は国連を積極的に利用しているわけだ(「米国の国連離れはやはり危険だ」2018年7月31日参考)。

Wikipediaより:編集部

例を挙げて説明する。米国を皮切りに、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本などの国がファーウェイ(華為技術)製品を政府調達から排除する意向といわれる。米政府は「ファーウェイが中国のスパイ活動を支援している」として、米国市場から実質的に追放してきた。それを受け、米国の同盟国の中にその決定に従う国も出てきたわけだ。

ところが、国連関係者が語ったところによると、中国は国連や国際機関にファ―ウェイや中国の通信大手「中興通訊」(ZTE)を優先的に使用する方針だという。欧米政府がファーウェイを政府の調達から追放したとしても、中国側は国連や国際機関に入れていくわけだ。具体的には、ITUの趙厚麟事務総局長が先頭に立って、ファ―ウェイを国連機関に積極的に利用していく考えという。そうなれば、国連機関の全てのデータへのアクセスは可能となる。

トランプ米大統領が国連軽視、国連離れを続けていくならば、中国が近い将来、国連を完全にその支配下に収め、世界制覇の野望実現に動き出すシナリオが現実味を帯びてくるわけだ(「国連が中国に乗っ取られる……」2019年2月3日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。