補助金に頼らない過疎地のホテルのつくり方

北海道から九州まで訪ね歩いて、残念な光景を見ることがあります。

社会資本総合整備交付金などの補助金や、過疎債・合併特例債などの有利な起債を活用して、過疎地の拠点として宿泊施設などを行政主導でつくるのですが、行政には観光のノウハウがほとんどなく時間とともにお客さんが少なくなり、また、設備の維持管理費や修繕費もかさんで、お荷物施設となっていること。

さらに残念なのは、未だに新しく、補助金や起債を活用して宿泊施設などをつくろうとする動きがみられること。補助金や起債を一概に否定するわけではありませんが、補助金や起債を活用して建物をつくれば過疎化を食い止めたと勘違いし、つくることが目的になってしまうと、やはりダメだと考えています。

1)観光においてハードから考えること
2)民業を圧迫していること

の弊害をもう少し自覚してほしいです。

松山の道後温泉、神戸の有馬温泉などで行政が補助金を大量に投入して、非常に安価な宿泊施設をつくればどうでしょう。おそらく民業圧迫として地元から大きな反発があるでしょう。

過疎地には宿泊施設などの拠点がないから、行政が補助金でつくって安価に提供するのだという理屈なのでしょうが、これは未来の民業圧迫になりかねません。今の日本の過疎地においては、付加価値を高め適正な対価を取ることが何より大切ですが、近くで非常に安価な価格で提供してしまうと、そうした機会を奪ってしまいます。
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とはいえ、過疎地で何もないからこそ拠点が必要だ、住民からもそうした声が強いと言われるのですが、まずは住民とよく対話して、本当は何を望んでいるのか解きほぐしていくことが大事だと思いますし、ハードからではなく、人の流れをつくることから考えたらどうでしょうか。

鹿児島県長島町。僕が着任するまで団体の観光客はほとんど来ていませんでしたが、阪急交通社と連携し年間6,000人以上が訪問、また、辻調理師専門学校と連携した食のまちづくりなども進め、今は民間資本で15億円規模の宿泊施設をつくっています。

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人の流れをつくり、場に力を与えて、民間が入りやすい環境を整えることが何より大切だと思います。

仮に、行政が補助金を投入するならば、建物ではなく、人の流れに使った方がはるかに効率的です。例えば、1人4,980円の日帰りツアーの食事代の原価は1,000円にみたないでしょうが、1人当たり1,000円補助すればどうでしょう。原価2,000円近くの超豪華な食事になり、お客様の満足度も大きく上がります。また、そのお金も地元に還元されます。

1,000人に1,000円補助しても100万円。ハードに投資するよりよほど効率的ではないでしょうか。

平成の終わり、補助金や起債を活用した行政主導の宿泊施設も見直す時期が来ていると思います。

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<井上貴至 プロフィール>


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2019年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。