ゴーン夫人出国で多重国籍の問題が再燃

新田 哲史

日産自動車の臨時株主総会が8日開かれ、カルロス・ゴーン前会長は取締役を解任された。ゴーン前会長は先週、オマーン・ルートをめぐる特別背任容疑で4度目の逮捕をされたばかりだが、きのう(7日)は、キャロル夫人が突然出国したことが判明。渡航先のフランスメディアの取材に応じて、波紋を呼んでいる。

夫人は、東京地検特捜部からの事情聴取要請を拒否。ゴーン前会長の4度目の逮捕時にパスポートを押収されていたため、捜査展開次第で、身柄拘束もあるのではないかとみる向きもあったが、結局、夫人は日本国外に“脱出”した。

今後はフランス政府や欧米メディアに夫の「救出」を働きかけていくとみられるが、押収されたのはレバノン政府発行の旅券で、夫人はもう一つ、米政府発行の旅券を所有しており、これを使ったと報じられている。

米国のパスポートで出国 ゴーン元会長妻:日本経済新聞 

これまでゴーン前会長を擁護していた八幡和郎さんも、この夫人の出国についてはFacebookで是々非々で論評。捜査当局がもう一つの旅券を抑えていなかったミスはもちろんだが、蓮舫氏の追及時に指摘した多重国籍の問題点を改めて述べている。

ゴーン夫人のパスポートと携帯電話を押収したのにゴーン夫人は出国。何重国籍かしらんがパスポートひとつだけと思っていたとしたら検察は馬鹿。入国記録はどっちにあったのか?出し抜かれていい気味ではあるが、二重国籍は不正の温床であることが認識されることになればこれも幸い。私は多重国籍にそもそも反対だが、認めるとしても、パスポートと参政権はひとつに限定すべきだと思う。

あらためて確認しておくが、アゴラがかつて蓮舫氏を追及したのは、左派系の擁護論者が叫んだような人種差別の意図などがあったからでは毛頭ない。少なくとも私自身は以前も書いたように、政治家の多重国籍は禁止しても、民間人については単一国籍を求めている現行の国籍法改正も含めて議論の余地はあると思っている。

編集部撮影

この問題はヒトのグローバル化時代にどういうレギュレーション、コンプライアンスがふさわしいかというところが本質なのだ。朝日新聞などの左派メディア、小田嶋隆氏ら左派系論者が差別論にすり替えて、議論が散逸・意味不明な展開をたどったが、全くトンチンカンで、ちゃんちゃらおかしかった。

しかし、民間人の多重国籍規制をある程度緩和するにせよ、様々なリスクが顕在化してくることだけは強く認識しておかなけなるまい。

これも再三述べることだが、ヒトのグローバル化の現実を踏まえた上で、納税や(日本にはない)兵役といった各国国民の義務について、その人が多重国籍になった場合にどう折り合いをつけていくのか、あるいは国際テロやスパイといった治安上の課題にどう向き合うのか、詰めておく必要がある。

ところが、日本では国籍問題をタブー視して放置し続けており、実効性のある政策的議論すら実質的に棚上げになっているのが現状だ。

今年10月には、22歳の誕生日を迎えるテニスの大坂なおみ選手の国籍選択期限を控えている。これまでに選択したという情報はなく、もし現時点でも日米二重国籍である場合、その決断も焦点になろう。

そういう中で起きたキャロル夫人の出国劇。今度こそ日本社会はグローバル時代の国籍制度づくりに向けた実のある議論が進むのだろうか。