ゆうちょPayが始まるが、課題は多い

有地 浩

最近QRコード決済が乱立しているが、またひとつ、ゆうちょPayが5月8日からサービスを開始する。これはお店での支払額が、デビットカードと同じように、利用者のゆうちょ銀行の口座から即時に引き落とされるもので、お店には翌日には入金がされる。利用者はスマホで手軽に支払いができて、使い過ぎの心配も少なく、お店はアプリをダウンロードするだけなので端末代等の初期費用が不要、かつ売上代金の入金も早いので資金繰りが助かるというメリットがある。

ゆうちょ銀行サイトより:編集部

また、このサービスはGMO-PG社が提供している銀行Payという決済サービスシステムを使っているため、同じく銀行Payのサービスを利用している、例えば横浜銀行のはまPayや福岡銀行のYOKA! Payなどの加盟店でも、ゆうちょPayで決済ができる。

これまで銀行Payは地方銀行で採用するところがぼつぼつ出てきていたが、今回ゆうちょ銀行が参加することによって、一気に利用できる店の広がりが全国に拡大する可能性が出てきた。たとえばゆうちょPayを持っている東京の人が福岡に行って、YOKA! Payの加盟店で支払いができるようになるし、反対にYOKA! Payを持っている福岡の人が、北海道に行ってゆうちょPayの加盟店で支払いができるようになる。

こうしてみると、ゆうちょPayの前途は洋々たるもののように見えるが、現実は必ずしもそう甘くはなさそうだ。

第一に、加盟店獲得の面で、ゆうちょ銀行と地方銀行との競合が生じることが懸念される。ゆうちょ銀行は支店網の密度が高く、口座を持つ人も多いことから、ゆうちょPayの潜在的な加盟店は多いだろうが、ゆうちょPayの加盟店はどちらかというと収益的にあまり期待ができない小規模事業者中心となる可能性が高い。

ゆうちょ銀行は法人に対する融資がまだ認められておらず、銀行の規模の割には法人取引は多くないことから、多額の決済手数料収益が見込める大口の加盟店の獲得については、地元企業に太いパイプを持つ地銀の方が有利ではないだろうか。ゆうちょPayが今後伸びるかどうかは、ゆうちょ銀行の法人営業の努力にかかっているようだ。

また、銀行Pay以外の銀行系QRコード決済との競合でいえば、今年3月に始まったJ-Coin Payとこの秋にサービス開始が予定されているBank Payが、ゆうちょPayと競合するだろう。前者は参画する地銀が増えつつあるし、後者も全国約1000の金融機関を巻き込んで「オールバンク」なスマホ向けコード決済サービスを展開をすると意気込んでいる。報道によれば、Bank PayはゆうちょPayとの連携を視野に入れているとのことだが、実際にどのような連携がされるのか、先行きは不透明と言わざるを得ない。

二つ目の懸念材料は、加盟店が支払う決済手数料だ。ゆうちょPayの加盟店手数料がいくらかは明らかでなく、銀行Payを使っている他の銀行もネット上では、加盟店手数料は「お取扱件数や業種等により異なります」としか表示されておらず公表されていないが、それほど低くはないのではなかろうか。

昨今のQRコード決済戦国時代では、3年間加盟店手数料無料といったキャンペーンがLINE PayやPayPayなど、いくつかのQRコード決済で行われているが、ゆうちょPayがシステム的に依存している銀行Payでは、関係者の利害が複雑に絡むため、なかなか手数料ゼロとすることは難しいと思う。

たとえば、九州にあるゆうちょPayの加盟店で、福岡銀行や熊本銀行のYOKA! Payを使って決済が行われた場合、ゆうちょ銀行としては、自分が開拓した加盟店での決済なので当然手数料は自分のものにしたいと思うだろうが、福岡銀行や熊本銀行はYOKA! Payを使った決済であり、システム使用料等の経費がかかっているので、当然手数料の分け前を要求することとなろう。これはある程度の水準の手数料がないと十分な分配ができなくなるので、関係者全員が手数料はゼロでよいと合意しない限り、LINE PayやPayPayのように一定期間手数料ゼロとすることは困難だ。

さらに、銀行Payのシステムを運営しているGMO-PG社としては、システムの運営費用をまかない、さらには一定の収益を上げるために、銀行か加盟店のどちらかから何らかの手数料をもらう必要がある。この点からも加盟店手数料ゼロは実現が難しいと言わざるを得ない。

この他の懸念材料として、ポイント還元についても、ゆうちょPayは、LINE PayやPayPay、楽天PayなどのIT・流通系QRコード決済に比べて大きく見劣りすることは否めない。もちろん、LINEがポイント還元を積極的にしたこと等のために103億円の赤字になったことが報道されるなど、現在のような過激なポイント還元キャンペーンは長続きするとは思えないが、平常時のポイント還元率でみても、ゆうちょPayが加盟店のクーポンを提供する程度のサービスはできたとしてもやはり見劣りがすることは否めない。

もちろんシステム的にポイント付与をすることは可能だろうが、そのためには、ちょうどクレジットカード会社がカード保有者からの年会費と加盟店手数料の一部を使ってポイント還元をしているのと同じように、ゆうちょPayを使う人から年会費を取るとか、加盟店手数料にポイント還元分を上乗せするとかする必要があるが、これはなかなかできることではないだろう。

QRコード決済が乱立する中で、ゆうちょPayが競争に勝ち残るには解決すべき課題が多いと言わざるを得ない。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト