北政府「人権報告書」は嘘だらけだ!

スイス・ジュネーブの国連人権理事会で9日午後(現地時間)、「普遍的・定期的審査」(UPR)の北朝鮮人権セッションが開かれた。北朝鮮のUPRは2009年12月、2014年5月に次いで今回が3回目。北側の「政府報告書」の表明後、加盟国代表から北の人権蹂躙を批判する声が出た。日本政府代表は日本人拉致問題を質問、それに対し北側代表は「既に解決済み」と従来の立場を繰り返した。以下、UPRの北人権セッションのポイントを紹介する。

北で女性への性暴力が蔓延している実態を記した国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」報告書

国連人権理事会では各加盟国の人権状況、人権問題に関連した国際法、国連憲章の義務の履行状況を調べるために、2006年からUPRという審査メカニズムが設置され、08年4月から具体的に実施されている。

UPR作業部会では全ての加盟国が参加し、被審査国の人権状況について質問できる。同審査には非政府機関(NGO)は発言できないが、傍聴できる。その審査内容を理事会の3国代表が報告者国となり、まとめてUPR作業部会に提出。それが採択されると、理事会の全体会合に提出され、正式に採択される運びとなる。

UPR作業部会には3つの基本文書が審査のたたき台として提出される。一つは審査される国の「政府報告書」、2つ目は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が人権問題に関連した国際条約や憲章に対する被審査国の義務履行を編集した文書、そしてOHCHRがNGOらの提出した、被審査国の人権問題に関する信頼できる情報をまとめたサマリーの3文書だ。

北朝鮮は今年2月20日、15頁からなるナショナル・レポート(政府報告書)をUPR作業グループの第33会期に提出済みだ。人権関連法案の改正などを挙げ、人権状況の改善への努力を強調した。「政府報告書」は2014年のUPR作業部で勧告された改善要求に対する北側の返答だ。

北朝鮮問題といえば非核化問題が先ず挙げられるが、同国の人権状況は近年、悪化し続けている。迫害されているキリスト教徒を支援する超教派の宣教団体「オープン・ドアーズ」は2019年1月、19年版ワールド・ウォッチ・リスト(迫害指数)を発表した(同リストの調査対象は150カ国、報告の調査期間は2017年11月1日から18年10月31日)。「オープン・ドアーズ」の迫害インデックスでは北朝鮮は2002年以来、最悪国家だ。

「オープン・ドアーズ」は「北朝鮮でのキリスト者への迫害は例がないほど激しく、世界でも最悪だ」と記述している。聖書を所持することも、祈祷することも許されない。キリスト信者であることが分かれば、即収容所送りとなり、拘留され、強制労働、虐待を受ける。収容者に拘留されているキリスト者の数は5万人から7万人と推定されている。実数はもっと多いだろう。

「オープン・ドアーズ」の報告書は「南北融和路線が進められ、米朝首脳会談も開かれたが、宗教の自由では全く改善は見られない。金正恩氏への個人崇拝はむしろ強められ、対中国境線警備隊の数は増やされている、亡命を阻止するためだ」という(「文在寅よ、北のキリスト者の声を聞け」2019年1月19日参考)。

また、 国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(Human Rights Watch= HRW)は昨年11月1日、ソウルで記者会見を開き、北朝鮮での女性への性暴力の実態を報告した、全72頁に及ぶ報告書によると、北の女性たちは朝鮮労働党幹部、官僚、警察・刑務所関係者などによって常に性的暴行を受けているという(「北朝鮮で性暴力:『人権弁護士』文大統領の名が汚れる」2018年11月3日参考)。

非核化問題の解決を優先するという理由から、米韓両国はこれまで人権問題は余り追及せずにきた。特に、南北融和路線を推進する韓国の文在寅大統領は人権問題には触れず、黙認。トランプ米政権も非核化交渉のマイナスとなるとして、人権問題では直接批判を避けてきた経緯がある。北朝鮮は欧米から人権問題を批判されると、「内政干渉」として一蹴してきた。
「政府報告書」から2、3の項目を紹介する。

①「表現と情報に関する権利」
The rights of citizens to freedom of expression and access to information are protected by the Socialist Constitution, the Law on Complaints and Petitions, Copyright Law, Law on the Protection of Computer Software, Law on Electronic Certification, Law on Telecommunication and other related laws.

②「公正な裁判の権利」
The Socialist Constitution provides in article 166 that the Court shall be independent in administering justice, and judicial proceedings shall be carried out in strict accordance with the law.

③「生命保護の権利」
The right to life is guaranteed by the Socialist Constitution, the Criminal Law and other laws concerned and protected by the prosecutorial, judicial and public security organs. The Criminal Law contains several provisions concerning crimes of violation of the right to life and punishments corresponding to the gravity of the crime concerned. Death penalty applies only to extremely serious crimes。

「政府報告書」によると、人権の改善の最大の障害は対北制裁だという。そして結論は「わが国は人民が主人とする主体思想を実施している国だ。人民の利益を最優先の課題とし、最高レベルのベストな文明を享受できるよう人権のセーフガードを完全なものにする努力を重ねている」と表明し、「政府報告書]を閉じている。

北朝鮮が国連に提出した「政府報告書」がいかに虚言とフェイク情報に満ちているか、少しでも北の現状を知っている人ならば分かるだろう。問題は「政府報告書」でどのように明記されているかというより、実際何が行われているかが重要だ。北が人権が改善されていると主張するのならば、国内の人権状況を現地査察する国連特別人権報告官や国際人権専門機関(NGO)の訪朝を認めるべきだ。それを「内政干渉」というのならば、北の人権は最悪の状況にあると考えて間違いないだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月11日の記事に一部加筆。