交通事故問題:専門家とは、極論を描いて叩いてみせるだけの人のことか

篠田 英朗

池袋の老人暴走殺傷事故や、大津市の園児殺傷事故などを見て、それらに反応する文章を書いた。

・「高齢者暴走は政治家の問題なのではないか
・「暴走老人に対する抑止力の確保は、日本の国益
・「大津事故:交通事故被害者の尊厳をどう尊重するか

専門外の素人の文章だ。ただ、人に見せる文章であるからには単なる感情論だけではよくないと思い、老人暴走にはどういう特有の問題があるのかを考えながら書いてみた。大津市の事件では、被害者を尊重するための記憶の継承について書いてみた。

はむぱん/写真AC(編集部)

もちろん私の文章は、素人の話だ。それ以上のものではない。
しかし正直、唖然とするのは、専門家と思われる「識者」の人々のコメントを見るときだ。

「暴走した老人を責めるだけではダメだ」

「高齢者全員から免許取り上げろというのはダメだ」

「マスコミを責めるだけではダメだ」

「マスコミの人間が全部ダメだと言うのはダメだ」

「ネットに感情的なコメントをするだけではダメだ」

ダメ、ダメ、ダメ、・・・とにかく突き放して見ていなければ、君はネトウヨだ、私は違うよ、だから私は専門家だ。

これって、少子高齢化社会の日本を停滞させるために繁殖しているという、あのダメ出し上司の姿ではないか。

「解決策は、自動運転車の開発を待って普及させることだ!(・・・どれくらいの時間が開発にかかるか、普及するのか、そんなことを考えるのは私の仕事ではないし、それについて私には何も責任がない)」

「対応策は、交通事故には十分に気を付けるように保育園に通達を出すことだ!(・・・気を付けると何をすればいいのか、そんなことを考えるのは私の仕事ではないし、それについて私には何も責任がない)」

こういう発想だけで生きている人こそが、「若者よ、もっと政治に怒れ」みたいなことを言いながら、いつも周囲にカリカリした雰囲気をまき散らしているのではないか?と疑わざるを得ない。

いつから日本は、こういう緊張感も責任感もない紋切り型だけの人物のことを、わざわざ専門家だとか識者だとかと呼ぶようになってしまったのだろうか。閉塞感が漂う。

篠田 英朗(しのだ  ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、ロンドン大学で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現職。著書に『ほんとうの憲法』(ちくま新書)『集団的自衛権の思想史』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)など。篠田英朗の研究室