「なんとかして、困っている子どもやその家庭を支援したい」という人々の思いが形になり、全国に広がっているフードバンクや子ども食堂。
フローレンスでも、2017年から、経済的に厳しい状況のご家庭に食品を届ける「こども宅食」事業を6つの団体等と連携し開始しました。利用家庭に行ったアンケートでは、「教育費や固定費以外で節約できるのは、親にかけるお金かな、と思い、夕食は子どもの分だけ作っている」といった切実な声もでていました。
生活保護利用世帯への食糧支援が認められていなかった
ところが、特に生活の厳しい生活保護を利用する親子に、食糧支援をできないことがありました。
生活保護制度では、国の定める最低生活費(衣食住などにかかる経費)からご家庭の収入を差し引いた分が保護費として支給されます。
これまでは、生活保護利用家庭がフードバンクや子ども食堂を利用した場合、食糧の相当額が収入とみなされる可能性がありました。どうしても困ったから食糧を受け取ったにもかかわらず、その分、もらった食糧に相当する生活保護の支給額が減らされるとしたら・・・全く意味がないですよね。
「困っている親子に食糧支援ができない」・・・なぜ?
なぜこのような現状があるかというと、昭和36年(!)に出された国の通知にある、「仕送り、贈与等による主食、野菜や魚介は金銭に換算して収入として認定する」というルールが見直されないままだったからです。
収入と認定されるかどうかの判断は各地の行政の裁量により、地域や家計の状況によっては、このルールに引っかからないようにお米や野菜以外の食品を受け取らざるを得ない状況に陥ったり、そもそも食品を受け取ることすらできなかった、という話も聞きました。
経済的な厳しさが子どもに与える影響
「ギリギリでも生活保護で衣食住が揃うならいいのでは?」そんな声もあるかもしれません。
しかし、「貧困が子どもから奪うものとは、何か?【子どもの貧困】」という記事でも書いた通り、経済的に困難な家庭では、衣食住だけでなく学習の機会や文化的な経験が不足し、子どもの自己肯定感、ひいては学力や将来の格差に繋がることが大きな問題です。こうしたことを考えると、ギリギリでもいいだろう、とは言えません。
ちょうど先週、5月24日に成立した食品ロス削減推進法案でも、企業から食品を集めてフードバンク活動を後押しすることなどが盛り込まれていて、食糧支援が今後もっと広がることが期待されます。
最後のセーフティネットである生活保護を利用している方の中には、頼れる親戚がおらずに孤立し、困難な状況に立たされている人もいます。
「生活保護利用家庭は行政の支援があるからいいだろう」ではなく、親子の状況がさらに悪化することを少しでも防ぎ、未来に向けて改善していくためには、行政のセーフティネットだけでなく、食糧支援を含めた様々な民間のサポートが届くべきだと考えます。
この春から新しいルールが始まった!
そしてついに、この状況を打開する新しいルールがこの春から始まったとのニュースを入手しました!
2019年3月29日付で、厚労省から各自治体に通知がなされ、「子ども食堂において食事の提供を受けた場合やフードバンクから食料の提供を受けた場合、子ども食堂やフードバンクの取組の趣旨に鑑み、原則、収入として認定しないこととして差し支えない」と改正されました。
この改正を受けて、文京区のこども宅食事業でも、この新しい運用ルールのもと、2019年度中に生活保護利用世帯に配送を開始できるよう対象世帯数を拡大していく為の準備を進めているところです。
厚生労働省のWebサイトに今回の正式通知が掲載されておらず、まだこの改正を知らない食糧支援の実施者・団体もいるようなので、どんどんこのニュースを拡散していきたいと思います!
このニュースを知った全国の支援者が動き出し、より多くの本当に困っている家庭に食糧支援が届くようになれば本当に嬉しいです。
▼文京区のこども宅食事業を応援する
親子の困難が放置されない社会へ。こども宅食がつなぐ1000世帯の命
▼こども宅食の全国への普及を応援する
命をつなぐ「こども宅食」を全国へ。親子の危機を予防し、安心して子育てできる未来を
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年5月27日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。