融資先企業の経営不振に対して、銀行は、どのように対応すべきか、これは非常に古く、かつ難しい問題である。論点は、業況の悪化が一定の水準を超えると、銀行としては、与信判断を債務者に不利な方向へ変更せざるを得ない一方、そうすれば、債務者の業況の悪化を加速させてしまう可能性があるという矛盾に集約される。
この矛盾は、古くから、銀行の融資姿勢を批判的に皮肉るものとして、晴れには傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げると表現されてきた。これでは、確かに、傘としては役に立たないが、これが銀行批判としての意味をもつためには、銀行とは、雨が降るときに傘を差し出すもの、即ち、企業の業況の悪いときに金融支援をするのが銀行の責務だということを前提にしなければならない。さて、銀行とは、そのような社会的責務を負うものなのか。
実際、かつて、民主党政権下で、亀井静香金融担当大臣は、そのように主張し、そのように行動したのである。2009年、前年の世界的金融危機をうけた景気後退期において、業況が悪化した中小企業等の救済は大きな政策課題とされ、亀井大臣は、「中小企業金融円滑化法」(正式には「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」)の制定に強い意欲を燃やしたのであった。
この法案は、景気後退の強い影響を受けた中小企業等について、業況等の客観的基準からすれば正常な債務者と位置付けることが困難な状況にある場合においても、銀行等が積極的に条件緩和等の措置を行うこと、即ち、傘を差し出すことを努力目標として定めたものである。法律は、実際に、2011年3月末までの時限法として2009年末に成立し、結果的には2013年3月末まで延長されて、そこで失効した。
当然のこととして、当時、この法律を巡って賛否両論が激しく対立した。事案は政治性を帯びるもので、理論的に黒白がつくとも思えないが、金融規律に政治が介入することは、極めて異常な事態であり、また、資本主義経済体制に内在する自由競争の原理に反する面もあり、金融界としても、産業界としても、反対の立場をとるべきものであったと思われる。
さて、この法律、失効から6年、効果測定の理論的分析をみないようだが、実際に役に立ったのだろうか、弊害はなかったのだろうか。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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