立憲民主党が「立憲ビジョン2019」という形で発表した参議院選挙の公約を見た。
大変に失望した。
私は以前、「立憲民主党の高齢者運転対策の動きを応援する」という題名の文章を書いてしまった。立憲民主党が、「高齢者運転対策について議論するワーキングチームを設置した。近く提言をまとめ、必要に応じて法的措置も検討する。」というニュースを見て、書いた文章だ。
立憲民主党としては、高齢者運転対策は、2カ月程度の議論では、やるかやらないか決められる問題ではない、ということか。残念だ。
政党のほうにやる気がなかったのだから、私としては、以前に書いた「応援したい」という文章を撤回しなければならないようだ。
立憲民主党を応援したかったのは、立憲民主党の支持者層が著しく高齢者に偏っているためでもある。
野党第一党が高齢者党では、日本の政党政治の健全な発達はあり得ない。高齢者運転対策は、新しい立憲民主党への象徴的な第一歩にもなったはずだ。
しかし、高齢者運転対策は、20年くらいは時間をかけてじっくり議論したい、せめて立憲民主党の支持者層の年齢が平均寿命の年齢を超えるまで待ってほしい、といった話だったら、日本の政治の停滞は決定的だ。
「立憲ビジョン2019」は、「現在の日本は、人口減少と高齢化…などの大きな変化にさらされています」という文章から始まる。そこで立憲民主党が追求する政策の一番目「ボトムアップ経済ビジョン」では、「家計所得を引き上げる」ということに続けて、「老後の安心を高める」という目標が掲げられる。
結構な話だ。高齢者運転対策など、とんでもないことだろう。
「老後の安心を高める」ために、先日の党首討論でも、枝野代表は持ち時間のほとんどを年金問題に使った。
だがどうやってよりよい年金の運営を図るのか。記者会見では累進課税の強化について発言があったようだが、なんとなく曖昧に済まされている。
日本の年金制度では、「マクロ経済スライド」という仕組みがとられている。したがって現行制度で年金を充実させるための最適解は、実は、マクロ経済の改善である。最低賃金の改善は良い。だが果たして「中小零細企業への支援を拡充」させて、マクロ経済の改善は図れるのか。むしろ厚生年金強制加入の対象を、中小企業にまで広げていく必要があるのではないか。
参照:厚生労働省HP「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)」
そのあたりを説明することこそが、政策ビジョンの提示、というものなのではないか。
だが、あるいはそれもじっくり時間をかけて議論をしていく問題、ということなのだろうか。残念だ。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、