融資先企業の経営不振に対して、銀行は、どのように対応すべきか。難問は、業況の悪化が一定の水準を超えると、与信判断を債務者に不利な方向へ変更せざるを得ない一方、そうすれば債務者の業況の悪化を加速させてしまう可能性があるという矛盾である。
この矛盾は、古くから、銀行の融資姿勢を批判的に皮肉るものとして、晴れには傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げると表現されてきた。これが銀行批判としての意味をもつためには、銀行とは、雨が降るときに傘を差し出すもの、即ち、企業の業況の悪いときに金融支援をするのが銀行の責務だということを前提にしなければならない。さて、銀行とは、そのような社会的責務を負うものなのか。
業況の悪化が景気変動に伴う一時的なものだとしたら、表層的な経営指標の悪化だけで、安直に融資判断を変更させることは不適当である。不適当という意味は、そうすることで企業を破綻に追い込んでしまえば、なによりも銀行自身の損失であるということと、淘汰による産業の効率化とはいっても、不況抵抗力の強さだけでは企業の真の価値は測り得ないということである。
また、仮に、業況の悪化が一時的なものではなくて、構造的なものだとしても、単に破綻に追い込めば済むというものでもなく、そこにある人材、技術、資産、知名度、歴史などは、別の環境で、別の条件下で、別の利用方法で、有効に活用し得るものも少なくないはずで、まさに、そのような資源の再配置こそが産業効率化の実質的な意味だとしたら、銀行として、融資を超えた支援の方法があり得ると考えられるのである。
実は、この点について、金融庁の考え方は非常に前向きである。いわゆる事業性評価に基づく融資という考え方である。その意味するところは、銀行として、融資先企業の業況について、表層的な数字を超えて深く経営実態を理解しない限り、支援すべきかどうか、支援すべきとして、何をすべきか、判断できないはずだということである。
つまり、事業性評価というのは、企業の過去の事業活動を反映した財務諸表に現れる表層的な数字の評価ではなくて、企業が営む事業の現在と将来に関する評価なのであって、財務諸表には未だ現れてこない情報から融資判断することを意味するのである。そして、事業性評価に基づけば、経営の問題点も特定できるので、適切な支援の方法も工夫できるということである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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