参院選2019:ネット票「想定外」のヤマは動くか

新田 哲史

2019年の参議院選挙も選挙運動は今日で終わり。21日の投票日を残すのみとなった。ここまで新聞・テレビの世論調査で自民・公明の与党の過半数維持の見通しは伝えられている一方、先日のVlogでも述べたように、急速に若い世代を中心に支持を広げている山本太郎氏率いるれいわ新選組などの動向について、固定電話による調査方式を主体としてきたマスコミの世論調査がどこまで「実態」を反映しているのか、興味深い。

れいわ新選組を巡っては、SNS上での盛り上がりに止まらず、リアルでも各地の街頭演説会場で、ほかの政党などが動員をかけた場合よりも大勢の人たちを自然発生的に集めている。しかし、一般紙やテレビではほとんど取り上げられず、その支持層からは「陰謀論」まで飛び出す始末だ。

れいわ新選組Facebookより:編集部

現時点でのれいわ新選組は政党要件を満たさず、「諸派」扱いとされているため、通例の選挙報道の業界ルールに基づいて扱われているに過ぎない。マスコミ露出で劣っている分、ネットでの注目度は高く維持したまま、どこまで健闘するのか?中でも、重篤の障害者2人の候補者を特定枠に宛てた分、山本氏が再選するには3議席以上の確保、つまり比例で最低でも350万票は獲得する必要がある点も含めて注目される。

また、東京選挙区でも、マスコミ各社の情勢で当落ライン上での激戦が伝えられる維新公認の音喜多駿氏のように、ブログやSNSで精力的に発信してきた成果がここで出るのかも見ものだ。音喜多氏と同じ30代の有権者の固定電話保有率はすでに3割を切っており(参照)、筆者が独自に入手した各社の世論調査を見ると、固定電話のみの方式と、携帯なども交えた方式で、ポイントに有意な差も一定みられる。

吉村大阪府知事の応援を受ける音喜多氏、柳ヶ瀬氏(音喜多氏ツイッターより:編集部)

ネットでの反応とマスコミ報道の差を考える上で興味深いデータがある。今回の参院選、選挙業界関係者の注目を集めたプロの分析データだ。元民主党衆議院議員で、現在は政界を引退してWEBアナリストとして活躍する村井宗明氏が多角的に各政党や候補者などのサイトへのアクセス等の動きを多角的に分析し、無償で公開している。

村井宗明氏(SNSより)

東京選挙区では、マスコミの情勢調査で6〜7番手と伝えられる音喜多氏の検索数が6月時点で塩村文夏氏に次いで2番手。HPへの流入数はダントツの首位。

音喜多氏と競り合い、僅差でリードしているとみられる立憲民主の新人、山岸一生氏はHPへの流入はほぼゼロだったといい、村井氏が「デジタルではなくアナログでの活動に希望をかける」と指摘してきた効果があったのか。立民支持層は、団塊シニアなどオールドリベラルが主体と俗に言われるが、それを裏付ける形になるのか、この点も興味深い。

一方、村井氏は党派別のサイトの分析もしている。これによると、注目のれいわ新選組のアクセス数は立憲民主を上回り、自民、共産、公明に次ぐ4位。検索流入数に至っては自民に次ぐ高さで、ネット主体で浸透してきた経緯をデータでも裏付けている。

中盤までの情勢報道では、れいわ新選組の比例票の獲得は社民党を下回る150万票程度、1議席の確保とみる向きもあったが、ここにきて、ある報道機関の期日前投票の出口調査では、社民党を上回り、4%程度も出ている。一般的に支持政党がない層は終盤に投票先を決める傾向が強いことから、勢いを伸ばしている可能性が高く、政党要件を確保するかも含め、最終結果が注目される。

また、ネットで「想定外」の得票といえば比例選だ。

まずは2016年参院選の比例選で、ネットを主体にした選挙活動で野党候補者最多の29万票を獲得した山田太郎氏が、今回、自民党から出馬して再度の票を獲得するのかも見ものだ。野党から与党への鞍替えとあって、支持層の反応が気になるところだったが、山田氏は前回の自民党比例候補者の最多得票が52万票だったことから、これを更新するという強気の目標を掲げて出馬した。

山田太郎氏、藤巻健史氏(公式HPより)

そこまで届くかはわからないものの、こちらも各種情勢調査では、堅調に支持を伸ばしているようで新たなサプライズが起これば、「自民党の比例候補者は業界団体などの組織選出」という従来のカルチャーに一石を投じよう。

ネット注目の比例候補者、もう1人は、維新の藤巻健史氏。先日、筆者が書いたように暗号資産(仮想通貨)ユーザーは30代など固定電話離れをした世代が主体。既存の世論調査が把握できていない層が動くのか、暗号資産の本格普及から初めての参院選であり、ユーザーの政治思考を探る上でも興味深い。

なお、アゴラ執筆陣では先述した候補者を含め、6人の方々が今回の参院選に出馬している。それぞれの武運を祈りたい。
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新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」