消費税廃止を訴える前に

与謝野 信

消費税vs所得税&法人税

先の参院選で2議席獲得した「れいわ新撰組」を率いる山本太郎氏の「消費税廃止」の財源論が、当初はMMT理論による国債発行により賄うというものから、最近は所得税と法人税の現在で賄うというのにシフトしつつあります。

れいわ新選組 YouTubeより:編集部

山本氏と「れいわ」の政策には消費税廃止の他にも財政出動を必要とするものがあるので、おそらく「所得・法人税増税」と「国債発行(財政赤字の拡大)」の両方共を視野に入れていると思われます。

先日アゴラにMMTを基盤にした政策の問題点を論考する4回シリーズを寄稿させていただきました。

MMTを基盤とする経済政策の問題点について
MMTとインフレの問題
アベノミクスとMMTの違い
MMT理論を通じて見えてくる今後のマクロ経済政策

この寄稿では基本的に財政赤字を拡大させておこなう政策について、MMT理論から見て論じており、「消費税を減らす(もしくは廃止)して、替わりの財源に所得税と法人税の増税を充てる」という議論については触れておりませんでした。

ですので、今回は「消費税vs所得税&法人税」について書いてみたいと思います。

消費税を減らして所得税と法人税を上げる

消費税廃止を所得・法人両税の増税でまかなうという議論はものすごく簡単にまとめると:

  1. 過去の消費税「増税」は所得税・法人税「減税」とセットでおこなわれてきた。(消費税が所得・法人減税に「使われてきた」)
  2. 消費税は逆進性があるが所得・法人税は累進性を有していたり、儲けに対しての税金なので所得・法人課税の方が「公平」だ。(税金はあるところから取れ)
  3. 消費税創設前に戻るだけなので、消費税廃止は所得税・法人税増税で賄える。

という議論です。

朝日新聞系の言論サイトWEB RONZAにもこの方向性を評価する記事がありました。

3つの主要財源の消費税、所得税、法人税の中からどの分野からより多く税収を賄うというのは難しい議論です。

経済学の観点から自由市場への影響がより少ない「効率的」といわれる税制議論があり、行政上の運営の観点から「税収を安定させる」ために3つの主要財源のうち特に安定的な消費税を活用するという考えもあります。これらの議論も重要なのでしょうが、国民目線からすると「行政の都合」であったり専門的すぎると思われてしまいがちです。

政治的な観点からすると、再分配を行うにあたり、累進性があり、お金持ちからより多く取る税金の方が再分配の効果が高いという議論もあります。この「公平性」に関する議論は消費税の「逆進性」などから広く国民の関心を呼ぶ議論であると思います。

税の公平性に関して

消費税は、所得が低くとも消費すると必ず税金が取られてしまいます。一方所得税が採用している「累進課税」では所得が高いと「税率」自体が高くなるため、より所得の再分配がおこなわれ格差の解消につながりそうです。このため消費税より所得税の方が「公平」に感じられます。

しかし実は所得税は所得税で「公平性の欠如」の問題が指摘されているのです。消費税が導入される前の所得税は今より格段に高く、昭和61年度の住民税と合わせた最高税率は88%でした。(参照1)(参照2)

当時ここまで税率が高いと、源泉徴収で所得税が取られるサラリーマンと確定申告を通じて経費の控除などが認められる自営業者間での「不公平感」が問題になっていました。税率が問題ではなく、しっかり捕捉されているかそうでないかの不公平感です。

当時「クロヨン(=9・6・4)」とかいう言葉が流行っていました。捕捉率が給与所得者は9割、自営6割、農林水産業者4割くらいと思われていたのです。

当然都市部のサラリーマンたちには強い不公平感と不満があり、議員定数格差などと相まって「都市部」と「地方」という断絶を作り出していました。

実際、このような不公平の是正を訴えるワンイシューの政党(「サラリーマン新党」や「税金党」)が国会で議席を獲得していました。

消費税に逆進性があるとはいえ、昭和の高い所得税の時代に戻って消費税分を賄うというのは、別の形のより強い不公平感と不満(給与所得者vs自営、源泉徴収vs確定申告、都市部vs地方)を復活させる可能性があります。

もう一つの法人税ですが、気をつけなければいけないポイントは失業率を増やさないことです。法人税を上げるというと、株主や経営者などの「お金持ち」から税金を取っているような気になりますが、工場や事業所を(より法人税の安い)海外に移転される危険性も高いのです。そのとき困るのは工場や事業所で働いている一般の社員です。雇用を増やすためにはむしろ海外の企業も日本に進出させて、工場や事業所を新規に開設させて人を雇ってもらわないといけません。法人税の引き下げは成長率を高める「成長戦略」ためにも必要と考えられています。

失業率が非常に低い昨今では、雇用の海外流出がそれほど大きな問題に思われないかもしれませんが、雇用を奪われる一部の労働者に高い負担を集中させます。法人税増税の一番大きな問題は雇用が確保されなくなるという形の犠牲が発生することです。法人増税だって結果的には「不公平感」は作り出すものなのです。

消費税を含めて税金はなるべく払いたくないものです。そして、現在の経済環境下では消費増税による悪影響が強いという懸念も理解できます。また所得税や法人税のほうが「少数の金持ち」から徴税するように思われますが、決してそのような「勧善懲悪」的なシナリオは成り立ちません。法人税の影響は低所得者にも及びますし、所得増税は中間所得層のサラリーマンにはより痛税感が強くなる可能性があります。

格差の是正も重要な課題です。しかし経済環境によっては消費税を所得税や法人税で単純に代替すれば格差が縮小するとも限らないです。失業率の上昇は格差を拡大させます。

消費税廃止、所得法人増税という政策に野党の一部は魅力を感じるかもしれませんが、ここは慎重に消費税のメリット・デメリットを再検討して、3大財源の一つを失うことによる将来への悪影響を見極めていただきたいです。

与謝野 信 ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

1975年東京生まれ。英国ケンブリッジ大学経済学部卒業後、外資系証券会社に入社し、東京・香港・パリでの勤務を経験。2016年、自民党東京都連の政経塾で学び、2017年の千代田区長選出馬(次点)から政治活動を本格化。財務相、官房長官を歴任した故・与謝野馨氏は伯父にあたる。2019年4月、氷河期世代支援の政策形成をめざすロビー団体「パラダイムシフト」を発足した。与謝野信 Official WebsiteTwitter「@Makoto_Yosano」Facebook