日産自動車の独裁者カルロス・ゴーン元会長を告発した西川廣人社長に株価連動型役員報酬の不正が発覚し、同氏は9月16日付で辞任した。日産の経営は先が見通せない状況にある。
日産は1960年ごろから「技術の日産」を標榜し、高性能車を市場に投入してきた。自動走行車の開発にも力を入れ、矢沢永吉を起用したテレビCMで、矢沢が微笑みながら両手をハンドルからスッと上げるシーンは印象深い。
自動走行車はレベル0から5に分類され、特定の場所(例えば高速道路上)でシステムが全てを操作し、緊急時だけドライバーが操作するのはレベル3に相当する。テレビCMはレベル3実現の日が近いことをアピールするものだ。
しかし問題が二つある。一つ目は「緊急時だけドライバーが操作する」という点。手放しで進む車に緊急事態が発生した際に、同乗者と話していたかもしれないドライバーがすぐにハンドルを持つことはできるだろうか。時速108キロで走行していたら、応答が1秒遅れただけで30メートル進む。この1秒が命取りになる恐れがある。
もっと問題なのは、ハンドルから手を浮かせるということ。CMのように数秒なら構わないが、次のサービスエリアまで1時間、手を宙に浮かせ続けることなどありえない。手を休めるためにハンドルの上に置けば、今までの習慣でドライバーはハンドルを回すに違いない。これでは、自動走行車は宝の持ち腐れである。
冷静に考えれば、このテレビCMはナンセンスである。「技術の日産」は経営の先が見通せないが、技術自体も問題大ありだ。
自動走行車がドライバーとどうコミュニケーションを取るのが適切かは、実はまだ研究段階にある。人間と機械のインタフェースの在り方を研究する人間工学の研究者たちの絶好の課題となっている。
10月1日の情報通信政策フォーラム(ICPF)では、その研究の一端を、東京大学の平岡敏洋氏に講演いただくことにした。皆さん、ご参加ください。
山田 肇