今週のメルマガ前半部の紹介です。
東洋経済オンライン名物のアトキンソン氏の連載ですが、本職の労働経済学者からスルーされているため焦っているのか、最近少々迷走気味です。
今回も「中小企業基本法でゾンビ企業を温存させているから日本の生産性は低いままなのだ」という主張のようですがいろいろと無理がある気がします。
氏の論考については以前も軽く紹介する程度に触れているのですが、今回はまじめに氏の矛盾点と、氏の論点から完全に抜けている点をまとめておきましょう。
氏の論点にある3つの死角
氏の論考には、以下の3つの死角が含まれています。
1. 生産性の低い会社を潰しても、そこで働いていた人が生産性の高い会社にそのまま移れるわけではない
ブラック企業議論でも同じようなことをいう人がいますが、ブラック企業を潰してもそこで働いていた人がすぐにホワイト企業に転職できるわけではありません。むしろたいてい似たような会社に再就職するものです。
ちなみに韓国の文政権は最低賃金の引き上げとセットで大手企業に労働時間の上限を引き下げる政策=採用を増やす政策も実施しています。賃金の低いサービス業みたいな職種からサムスンのような輸出大手への移動を促そうとしたんですね。
結果は失業者が増えただけでしたが。人間は将棋の駒みたいには動かせないものなんです。
2. 氏の生産性グラフから抜けている“ある国”の存在
氏の良く引用するグラフに、最低賃金と生産性の相関を強く示唆するものがあります。だから最低賃金引上げは生産性向上に不可欠なんだ、というロジックですね。
すでに本職の経済学者が複数指摘していますが、そのグラフにはなぜだかある国が(恐らくは意図的に)外されています。それはアメリカです。
まあ最低賃金8.5ドルながら一人当たりGDP62,000ドル超の米国は、氏のグラフにまったく当てはまらないので外したくなる気持ちもわかります。
でも「日本人は論理的思考も要因分析も苦手だ!」と風呂敷を広げてる人がファクトに手突っ込んだらダメでしょう(苦笑)
ついでに言うと今回の連載でも取り上げられている「日本の有給取得率が低いのは余裕のない中小で働く人が多いためだ」というのも無理筋です。確かに引用されているデータを見ると企業規模に比例するのは事実でしょうが、1000人超の企業でも消化率は58.4%と欧州の95%超と比較すれば格段の開きがあります。
ということはそこにはやはり有給取得を阻む構造的な要因が別に存在するということになります。
3. 労働者の存在が完全に欠落している
筆者が詩の論考を読んでいていつも疑問に思うのは、そこに労働者の存在が完全に抜けている点です。
氏曰く、日本人労働者は世界的に見てもそこそこ優秀、でも経営が悪いから生産性が悪く賃金も低く据え置かれている……etc
じゃあなんでその優秀なはずの日本人労働者はストうったり、より生産性の高い職場に流出したりしないんですかね。普通そうやって人材が流動化することでダメ企業が淘汰されると思うんですが、なぜ日本人だけは職場にへばりついて現状を甘受してるんでしょうか。教えてアトキンソン!
氏は「日本人が過去の成功体験にしがみついているためだ」とあっさり流すだけです。
ここでちょっと「今の会社に給料や待遇で不満があるけど中々転職できない」という読者の皆さんに聞きたいんですけど、その理由はなんですかね?
「明らかに働きぶりの割に報われていないけど、今がんばったら80年代みたくそのうちバブルでイケイケになるから」とか信じている人います?筆者はそんなビジネスパーソンには一人もあったことないですが。
やはりそこには、転職したくても出来ない、頑張って生産性上げようにも上手くいかない構造的な事情があると筆者は考えています。
フォローしておくと、氏の「人口減少時代なんだから日本人は一人当たりの生産性を上げるしかない。日本人は過去の成功体験を捨てるべきだし、もっともっと危機感を抱くべきだ」という出発点には筆者は全く異論はありません。
でも、上記のようにいろいろと抜けている点があるせいで肝心の提言自体が明後日の方向に行っちゃっているなというのが正直な印象です。
以降、
氏の奇妙な日本人観
“謎”の答えはズバリ……
Q:「会社に在籍したままのダブルワークを増やすコツは?」
→A:「マッチングをサポートする仕組みが欲しいところですね」
Q:「プロフェッショナルってこういうことでしょうか?」
→A:「自分でプロだと思えたら立派なプロでしょう」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2019年10月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。