24日の香港で実施された区議会議員選挙で民主派が圧勝した。投票率も、413万人の有権者(総人口約740万人)の71%を超える過去最高となった。定数452人の内、民主派が8割を超えることが確実とされ、独立派の当選も5%程度予想されることから、親中派は10数%の大惨敗だ(25日午前現在)。
6月以降、100万人を超える抗議デモが何度も繰り返され、どこかの国の動員プロ市民とは明らかに違うあまたの老若男女がこぞって黙々と歩いた。その背水の陣から湧き上がる熱気と迫力に世界が瞠目した。ここ最近のデモの過激化にも市民が微動だにしていないことが、この選挙で明らかになった。
人権問題に敏感な米国は早くも6月半ば、共和党上院のマルコ・ルビオらが「香港民主・人権法」を提案し、9月には民主派リーダーの一人黄之鋒氏らに公聴会で発言する機会を与えた(参照拙稿:「対中国の米国国内法:「内政干渉」はすべからく国際法に違反するか」)。
同法案は10月半ば下院を通過、11月19日に上院で修正可決後、20日下院で一括可決された。
成立には大統領署名がいるし大統領には拒否権もある。が、仮に拒否権を発動しても両院の2/3以上で再可決すれば成立するし、また大統領の署名がなくても10日以内に拒否権発動がなければ発効する。本件は上下両院ともに超党派のほぼ全会一致なので成立は間違いなかろう。
トランプ大統領が中国との貿易交渉のことを念頭に置いて、署名も拒否権発動もしない可能性があり得る。が、最終的に法案は発効しよう。人民元を香港からタックスヘイブンを経由してドルに換え、中国に還流させていることを考えると、この法案の成立は中国にとって相当に頭が痛いはずだ。
その米中貿易交渉、来月15日までに合意しない場合には米国の追加関税が発動される。それにはiPhoneへの課税なども含まれ米国も痛む。が、知的財産盗取など核心問題の改善なしにトランプも譲れまい。報道では21日、トランプは「(中国の対応は)私が望んでいるレベルに達していない」と述べた。
その一方で、安全上問題ない部品に限られるが、米企業からの華為への一部電子部品の輸出が認めるらしい。まさに硬軟取り混ぜての交渉だ。上下両院とも圧倒的多数で可決した香港人権法へのトランプの対応なども、結局は発効するにしても、中国に対するジャスチャーを意識していることだろう。
米国メディアは、先のトランプ発言について、合意にこぎつけるためには中国側のさらなる譲歩が必要だという認識を示したとし、年内の合意が難しいのではないかとも伝えている。来月15日に向けて、ぎりぎりの交渉が続きそうだ。
だが、習近平の試練は香港と米中交渉だけに限らない。来年1月11日の台湾総統選もある。
祭英文候補とコンビを組む民進党副総統候補に頼清徳前行政院長が名乗りを上げた。これで与党民進党と最大野党国民党、そして親民党の3党による選挙となったが、香港同様、民進党が圧勝するに違いない(関連拙稿「頼清徳はまだか!台湾国民党の副総統候補は馬英九政権の行政院長に」)。
香港での親中派惨敗に加え、米中貿易交渉が合意せずに年を越し、台湾総統選でも国民党が負けるなら習近平にとってまさに三重苦だ。今月中に発効するはずの香港人権法を、米国が実際に適用するなら四重苦に陥る。しかもそれらは須らく中国共産党の法と人権とを無視した覇権主義が招いたものだ。
そのような状況でも、安倍政権は習近平主席を国賓として日本に招くつもりなのだろうか。89年の天安門事件で世界から孤立した中国に手を差し伸べて崩壊から救い、爾後の高度成長のきっかけを与えたのは、宮沢政権による92年10月の天皇訪中であることは明らかだ。安倍総理はその轍を踏む気か。
筆者は、それなら安倍総理はせめて中国に条件を付けるべきだと考える。その条件とは「中国による香港民主派の五大要求受け入れ」だ。面子を重んじる国柄だからもちろん水面下で極秘にやらねばならな
筆者の案などアゴラの読者諸兄姉はおそらく総スカンだろう。だが、もし日本の策動で香港市民の窮状を救えるならきっと内心清々しい気分になる。それは他人様のために自己を犠牲にし、何かを為した時に感じるそれだ(…少々こじつけが過ぎるかな)。
強かな安倍総理のこと、こんな条件交渉などは、とうにしているかも知れないが。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。