イチロー氏に教わった「憧れの人にあえて会わない」合理的な選択

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
※Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

今年3月で引退をしたイチロー選手が、愛知県豊山町で行われた「第24回イチロー杯争奪学童軟式野球大会」のイベントの閉会式で興味深いことをいっていました。「僕に会った人は嫌いになる人もいる」というのです(詳しい内容は中日新聞の記事に掲載されています)。

このセリフにとても深く考えさせられました。「憧れの人は憧れのまま、キレイなイメージのままにしておくのが良いのかも知れない」と常々考えることがあるからです。

憧れの人に会って幻想が粉々に壊れた経験

私は昔、とてつもなく憧れていた人がいました。ビジネスで大成功し、たくさんの書籍を出し、頻繁にセミナーを開催してお客さんのハートを熱く燃やしていたのです。

ある時、その方のセミナーに参加する機会に恵まれ、ドキドキしながら参加をしました。セミナー会場に腰を下ろし、その人が登壇するために入室した瞬間、「あっ!ホンモノだ!」と興奮する状態を抑えられないほどでした。セミナーが終わり、懇親会タイムでその人の元に行き、出している書籍で書かれていたエピソードについて聞いてみました。その時、彼はスマホをいじってなにかをしていました。

その瞬間の気持ちは、今でも忘れる事ができません。彼はスマホから一切目を離さず、携帯をイジる手を止めずに「忙しいから後にして」と短く答えたのです。普段から「人を大事に」「感謝の気持ちを」と言っていたのですが、冷遇を受けたように感じた私は裏切られた気持ちになったのです。

その時からファンではなくなってしまいました。恋に恋する乙女心のつもりはなかったのですが、参加者と交流する場での対応としては紳士的な振る舞いではないと感じ、「パブリックとプライベートでの振る舞いは随分違うのだな」と覚めてしまったのです。

人は勝手に好きになり、勝手に覚めるもの

私などは駆け出しで知名度もない人間に過ぎませんが、ブログを書いたり、出版したり、ニュース記事を書いたりしていると「ファンです」と言われることがあります(多くはありませんが…)。

「自分の記事を熱心に読んでくれている人がいる」というのは、何回言われてもとても嬉しいものです。「いつか、直接お会いしてみたいです!」とも。嬉しい反面、刹那的な不安もあります。なぜなら、ファンは気がつけば自分の前から姿を消していることがよくあるからです。

頻繁に連絡をくれ、セミナーにも参加してくれていたのに、ある日突然姿を消してしまう…。これがとても悲しいのです。人間ですから相手に飽きて、興味を失うことはあるでしょう。また、私は相手の方に気分を害させないよう、かなり気をつけてコミュニケーションを取っているつもりですが、何かが相手のカンに触ってしまったのかもしれません。

いずれにせよ、人は勝手に好きになり、そして勝手に覚めていきます。くっついては離れる…人との出会いはこの連続だと感じます。それは例外なく、私自身も同じでファンになり、ファンを辞めるということを繰り返しています。そこを踏まえて、付き合っていかねばなりません。

自分の信念を貫くことの重要性

日本で凱旋して引退したイチローさん(Wikipedia英語版より)

「他人から批判される人生を歩む人は、自分の道を歩んでいる証拠だ」と、誰かから言われたことがあります。もしかしたら哲学的な引用なのかもしれません。

いずれにせよ、この言葉は正しいと感じます。どんな振る舞いをしても、何を発言しても批判する人は必ず存在します。自分の一面を見て「ファンです」といっている人も、別の一面を見てオセロがひっくり返るように、ファンからアンチになってしまう場合もあるのです。

イチロー選手が「僕と会うと(自分のことを)嫌いになる人もいる」というのは、自分の信念を曲げずに振る舞った結果なのではないでしょうか。信念を貫くことで一部のファンは覚めてしまい、逆にその他のファンはますます好きになるという結果になります。直接対面で会うのはそれがより顕著になるのです。

憧れは憧れのままに…

私は憧れの人は憧れのままにしておくのも、一つの戦略だと捉えています。

歴史上の人物はすでになくなっていて、永遠に会うことができないからこそいつまでも美しいままなのではないでしょうか?同じ現象が、若くしてなくなったり、早期引退をした天才アーティストにも見て取れます。会えないからこそ、いつまでも幻想が永遠に幻想のままなのです。

昔は私も、会いたいと思った人には、高エネルギーを出力して会いに行っていた時期もありました。ですが、今はもうしなくてもいいかなと思っています。ネットとリアルでは受ける印象がかなり異なるケースは少なくありません。対面でなくても、ブログの文体は大好きなのに、YouTube動画では残念な印象、という経験もあります。その場合はブログで引き続き見ることにして、YouTubeでは見ないというようにしてます。

ありのままを理解すべし、という主張もありそうです。しかし、私は美しいものは美しいままにしておくのも、いいのかなとイチロー選手の発言を聞いて思いました。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。