ブレグジットかけこみ引渡
1月30日、パリのロワシー空港でアルジェリア系フランス人アレクサンドル・ジョウリの身柄拘束。仏の「欧州逮捕状」に応じた英国で、2年の裁判の末だった。移行期間は司法協力も不変だが、サルコジ元大統領リビア資金疑惑関連のため、両国とも遺漏を避けたかったのだろう。ジョウリは、パリ16区ゴーン「新居」の隣人レバノン武器商人タキエディンの同業者で、捜査はサルコジの次期大統領選出馬を妨げる「マクロンの陰謀」と主張、ハンガーストライキも。
ブレグジットの朝に
そして2月1日、ひき逃げ事故に遭ったジョン・カーチャーがロンドンの病院で死去。13年前、イタリア留学先ペルージャで惨殺されたメレディスの父親である。米留学生アマンダ・ノックス被告は、1回目控訴審で無罪の隙に裕福な父の手配で無断帰国。「不在」差戻審は有罪、米伊間の熾烈な引渡交渉が予想されたが、最高裁で無罪。以来、彼女はTV、Netflix、出版(Waiting to Be Heard: A Memoir, 2015)と、冤罪専門家活動。
「欠席裁判」すると圧力
3年前の日本人留学生不明事件では、仏ブザンソン検察は、チリ人ニコラス・ゼペダ容疑者の引渡を求めている。首都サンティアゴでの審理は3回延期され、3月5日予定。仏側は、殺人で「欠席裁判」に持ち込むと主張。
軍政の虐殺者「シュラスコ(焼き肉)」送還
昨年12月16日、チリの隣国アルゼンチンの元警官マリオ・サンドバルを乗せたエールフランス機が、首都ブエノスアイレスのエセイサ国際空港に到着。70年代「汚い戦争」期、拉致・拷問・虐殺の限りを尽くした指揮官だったが、1985年に渡仏し帰化。実名で暮らし、「シュラスコ(電気拷問者)」は別人と主張。サルコジ時代には南米問題顧問をつとめ、大学教授でもあった。
7年に及んだ引渡裁判では、500人を殺した「人道に対する罪」は証拠不十分、学生1名の殺人のみで裁くよう、条件が付いた。連行時、家族に官名を名乗っており、被害者が収容された海軍機関学校の屋根裏に妻へ別れの言葉が刻まれていた。生存者は、学生が「移送された(上空からラプラタ河へ生きたまま投下)」(バーンズ・牛島信明訳『エビータ』新潮文庫・旦敬介解説)と証言。
「ユニコーン・キラー」
米ヒッピー活動家アイラ・アインホーン(ユニコーン)は、1977年、パートナー殺害で逮捕されたが、反戦・平和運動のためCIAに陥れられたと主張。公判前、保釈中に海外逃亡し、フィラデルフィア連邦地裁の「欠席裁判」で無期判決。2001年、スウェーデン人の妻と英国作家としてフランスの田舎で暮らしていたが、送還。仏側の条件で、「再審」を行うことと、「死刑」にしないことが求められた。同州議会はそのため特別立法。
「それならいらない」とスペイン政府
カタロニア独立運動のプチデモン前同州首相は、スペイン脱出後ベルギーを拠点とするが、欧州議会議員に選ばれる前、ドイツで引渡裁判。「反乱罪」でなく「公金横領罪」と条件付けられたため、西政府は「欧州・国際逮捕状」を取り下げ、代わりにEU議員の不逮捕特権に異議。スペインの「欠席裁判」は2年以下の刑に限られ、彼が「欠席判決」を受けることはない。
条件は無効と伊最高裁
「40年逃亡」のバチスチは、「欠席裁判」で終身刑。ブラジルは「有期刑」のみのため、「30年の刑」で引渡同意。だが彼は、ウルグアイに逃亡しイタリア直送となったため、伯伊間の約束に拘束されないという。当時のサルヴィーニ内相が「ボルソナロ新大統領に感謝」したのは、伯側の配慮のせいか。
「欠席判決」は、引渡の新根拠
1996年12月、仏映画監督の妻ソフィー・トスカン・ドゥ・プランティエがアイルランドの別荘で殺された。容疑者はただ1名、英国籍の詩人で地元女性画家と同居するイアン・ベイリーだった。深酒と女性への暴力、彼の手や顔にはたくさん傷があったが、捜査の手落ちで証拠は失われた。22年の間に、村人の複数証人も亡くなった。
仏政府は「欧州逮捕状」をとり2度引渡を求めたが、拒否。そこで昨年5月、仏側で禁固25年の「欠席判決」。アイルランドの裁判所は、最近の法改正とこの判決を新たな根拠として、総選挙結果発表の2月10日朝、引渡審理を開始(次回24日)。
みずから「欠席判決」を求める
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、1969年の女優シャロン・テート殺害事件が素材だが、悲劇の夫ロマン・ポランスキー監督は、1977年、俳優ジャック・ニコルソン邸で撮影中、少女モデルに薬物を飲ませレイプした容疑で逮捕。「司法取引」で未成年者との違法性交のみ認め、42日鑑定留置後、長期刑になるのを恐れ海外逃亡。
以来40余年、スイスとポーランドは引渡拒否。ポランスキー自身、2014年には、O.J.シンプソン事件等で有名なアラン・ダーショウィッツ弁護士を通じ、当初の42日で刑期満了と「欠席判決」してほしいと主張。裁判所は、「あくまで本人が出頭し審理を受けるべきである」とした。
2017年、被害者サマンサ・ゲイマーも、裁判を終わらせるよう申し立てた。「私まで『40年の刑』みたいです」。裁判所は認めず、フランスでは彼のセザール賞候補作『ジャキューズ(私は告発する)』が有名な冤罪「ドレフュス事件」を扱うため、新たな告発を招いている。
出廷と不在ミックス
ロシアのドーピング問題によるIAAF元会長ラミヌ・ディアク裁判は、セネガル政府が息子パパ・マッサタの引渡を拒み、調書のみ遅れて提出したため、1月13日初公判冒頭で6月まで延期。被告人6名中出廷3名(あとは弁護人のみ)。IOC委員でもあったディアクは、仏五輪委の招待でオルリー空港に降り立ったところを拘束され、以後4年超、パリで居住制限。
オランダ貨物航空役員は「10年逃亡」
日本企業も関わった燃油サーチャージ・カルテルで、「逃亡」というが、メタ・ウリングスは退任後他社顧問等をつとめていた。昨年7月、シチリアでバカンス中に拘束、米国へ引き渡された。「司法取引」で、禁固14か月(イタリアでの期間を差し引く)・罰金2万ドル。会社は2008年、彼女の部下は2009年に「協力取引」、禁固8か月・罰金2万ドル。彼女がシチリアで裁判中、彼は英貨物航空COO就任と報じられた。
あてはずれ「民事欠席判決」
FIFA元幹部ジャック・ワーナーは、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)をも私物化(Bensinger, Red Card, p.180)。トリニダード・トバゴで米引渡に抵抗。息子二人は、2014年、米国の裁判所で「協力取引」。彼は、自国の引渡法令が英連邦法制に合わないと主張し、英「枢密院」から返答待ちで更に引き延ばし成功。だが、米連邦地裁は「民事欠席裁判」で、彼に連盟へ7千900万ドル賠償するよう命じた。
その他「メジロおし」
ファーウェイ副会長の引渡審理は、第1段階(引渡根拠)を終え、決定は4月27日までの予定。第2段階(捜査権濫用)は6月。カナダは、自国経営者を米国に引き渡した前例がある。
ウィキリークス創始者ジュリアン・アサンジの審理は、ロンドンで2月24日から1週間、5月18日から3週間予定。スウェーデンがレイプ容疑の引渡請求を取り下げ、米国のみ。
交通死亡事故後に無断帰国した米外交官妻アン・サクーラスにつき、英国の求めを米政府は拒否。2月5日、英遺族側と米富豪故エプスタインの被害者民事代理人が共同会見、サクーラスとアンドリュー王子を両政府が「交換」し、聴取するよう提案。